朝日中高生新聞
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1面の記事から

子どもの貧困解消へアクション!

2016年6月12日付

 深刻さを増す子どもの貧困問題に対して、できることをしようと取り組んでいる同世代がいます。神奈川県では政策を話し合う会議に高校生らが加わり、提案しています。千葉県の高校生は、中高生向けに貧困問題を解説するウェブサイトを作りました。共通するのは「このままでは私たちの社会全体がたちゆかなくなる」という危機感です。(編集委員・吉田由紀)

政策会議に高校生も参加

神奈川 提案した講演会開催へ

 厚生労働省の調査では、日本の子どもの6人に1人が貧困に悩んでいるといいます。国連児童基金(ユニセフ)の報告でも、多くの先進国と比べると日本は貧困層と標準的な層の格差が大きいことがわかりました。
 神奈川県は今年度「かながわ子どもの貧困対策会議」を立ち上げました。きっかけは昨年8月の「かながわハイスクール議会2015」。高校生が話し合う議会で、子どもの貧困をテーマにした第8委員会が「高校生と、子どもに関する活動をしている大人とで対策会議を作りたい」と知事に提案したことでした。
 メンバーは、子どもの福祉に関わる市や町の担当者、NPO職員、高校の先生など。高校生と大学生計11人は「子ども部会」に参加します。
 5月22日の第1回会議で、そうさん(東京・しらうめ学園大学1年)が子ども部会でまとめた内容を提案しました。①子どもの貧困問題について理解を深める講演会の開催②子どもたちと高校生らの交流相談会の開催③「マンガ版・神奈川県子どもの貧困対策計画」の作成の3点です。
 事務局を務める県側は「先生の目が行き届かず、給食もない8月を子どもの貧困対策推進月間とし、提案のあった講演会も8月に開きたい」として、支援情報を集めたポータルサイトを7月に開くと発表しました。

「将来に希望を」

 たかはしさん(東京・玉川学園高等部3年)は「提案が実現に向けて具体的に進み、驚いています。こうした取り組みが全国に広がってほしい」。たかやすひろさん(神奈川県立しんじょう高校3年)は「先生や学校の友達には言えない悩みも、少し離れた立場の同世代になら話しやすいはず。将来に希望を持てるようにしたい」。
 相馬さんは高1の時、高齢者の貧困を学びました。所得について調べると、自身も貧困世帯にあてはまったといいます。「意識してみると周りにもたくさんいる。解決しないと、経済にも政治にも関わると危機感を持ちました。同世代には知ることから始めてほしい」

子ども食堂の写真
子どもの貧困問題への取り組みとして、無料や格安で食事を提供する「子ども食堂」が全国で広まっています
(C)朝日新聞社

ウェブサイト作り、同世代に発信

千葉・芝浦工大柏高の4人 情報伝え、意見募る

 中高生向けのウェブサイト「SITK子供貧困サミット」を作ったのは、芝浦工業大学かしわ高校(千葉県)2年のすずゆうさん、たかはしななさん、あたらしはるさん、おかさんの4人。今年2月、全国中学高校Webコンテストで最優秀賞と文部科学大臣賞などに選ばれました。
 「子どもの貧困問題を少し調べてみると、6人に1人が貧困状態など、決してひとごとではないと思い、このテーマに決めました」と鈴木さん。
 「SITK子供貧困サミット」では、まず「学ぶツアー」として、統計で見る日本の貧困の現状、非正規労働者や一人親世帯の増加といった背景、社会保障費の増大など、予想される未来の問題を伝えます。さらに「考えるサミット」として、対策や意見を紹介。サイトを見た人にも意見の投稿を呼びかけます。
 4人はインターネットや新聞、本などで調べたほか、低所得家庭の子の学習支援をするNPO法人キッズドアや、国際協力の学習施設ユニセフハウスなども取材しました。「貧困状態といっても、スマホを持っているし、想像していた『貧しい人』とは全く違って、子どもの貧困は見えにくい、と実感しました」と新さん。

「知って、行動を」

 このサイトや、あわせて開設したツイッターは反響を呼び、「国の責任で対策をすべき」「生活保護のシステムに問題がある」など様々な声が寄せられているといいます。今後、声の一部をサイト上で紹介する予定です。
 鈴木さんは、子どもの貧困をはじめ、社会の問題を議論する機会が同世代に少ないことに気づいたと言います。「いまはネットやSNSで情報を得るのも発信するのも簡単にできます。まず知って、自分で行動を起こさなければ」と話します。

日本の子は6人に1人

 厚生労働省によると、日本の子どもの貧困率は2012年時点で16.3%と過去最悪。6人に1人が貧困にあるとされます。データをとり始めた1985年以降、悪化傾向が続いています。ユニセフが2012年に公表した報告書では、子どもの貧困率の国際比較を分析したところ、日本は主な20カ国のうち、悪い方から4番目でした=グラフ参照。
 親から子へと貧困が連鎖することを防ぐため、14年1月に「子どもの貧困対策法」が施行。国は子どもの貧困率の改善や支援についての対策を立て、都道府県は子どもの貧困対策計画を作ることになりました。
 かながわ子どもの貧困対策会議で座長を務めるざわなおさん(立教大学コミュニティ福祉学部教授)は、子どもたちや若者が、社会の現実や仕組みを学び、自分の意見を表明しながら、立場や生活環境を超えてつながり合う機会が重要だと評価。子どもの貧困問題で若い世代が政策提案に関わる例は、他に聞いたことがないと言います。
 「貧困のただなかにいる子どもはとりわけ、意見を表明することが難しい状況です。子どもの声を大人がきっちりと聞き、現実に沿った計画策定や施策の遂行をしていく必要がある」と話します。

子どもの相対的貧困率のグラフ

ウェブサイトSITK子供貧困サミットの画像
ウェブサイト「SITK子供貧困サミット」
http://child-poverty-summit.jp/

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