- 日曜日発行/20~24ページ
- 月ぎめ967円(税込み)
2016年9月11日付
2001年9月11日の米同時多発テロから今年で15年を迎えます。犠牲になった約3千人の中には、日本人24人も含まれています。人々の記憶が薄れる中、世界を震撼させた事件について「どういうことがあったのか知ってほしい」と、遺族が東京都内で写真などの展示会を開きました。(編集委員・根本理香)
展示会を企画したのは住山一貞さん(79)。同時多発テロによって、世界貿易センターで銀行員として働いていた長男の杉山陽一さん(当時34)を亡くしました。「5年を区切りにメディアが注目し、みんなが事件について思い出す機会にあわせて企画しました」といいます。
展示会は8月29日から1週間、東京・中野区産業振興センターの一角で開かれました。展示されたのは写真や資料など約30点。住山さん自身が用意したもののほか、ほかの日本人遺族や現地のカメラマンから提供されたものなどです。
写真には、がれきが集められたスタテン島や、星条旗に覆われた最後のがれきを見送る人々の様子をとらえたものなどがありました。「ふだん日本人があまり目にしないものを意識して選びました」と住山さん。
日本の遺族が中心になって作り、ニューヨークの追悼施設に展示されている千羽鶴の写真もありました。07年ごろ千羽鶴を寄贈してほしいと施設から住山さんに依頼があり、ほかの遺族に加え、住山さんの知人が開く塾の小学生も協力して、1万2千羽以上の折り鶴を贈ったといいます。
来場者の一人に、ちょうど15年前の9月11日に生まれたという中学3年の女子がいました。住山さんの妻マリさん(76)から説明を受けて、「同時多発テロのことは、同じ日に生まれて気になっていたけれど、歴史として授業で学ぶだけで、よく知らなかった。実際に遺族の方から話を聞いて、あんな恐怖があったことを忘れてはいけないと思いました」と話していました。
展示会はテロから10年の節目にも開きました。「20年を迎えるときは、もう足腰が立たなくなっているかもしれない。今回が最後のつもりでがんばりました」と住山さん。ほかの遺族でも体調を崩している人が多いといいます。
この15年、世界で無差別テロが相次ぎ、日本人が巻き込まれるケースもありました。国として海外の犯罪被害者をいかに支援するか、安全保障のために個人の権利をどこまで制限するのかなど、課題は少なくないのが現状です。住山さんは「こういう問題を考える上でも、9.11は忘れてはいけない」と訴えます。
今年も渡米し、ニューヨークでの追悼式に参加する予定です。
訪れた中学生に、作品を一つひとつ説明する住山マリさん(左)=どれも8月30日、東京都中野区
同時多発テロ事件から約1カ月後に撮影された現場の写真
展示された写真の一枚。捜索・がれき除去作業終了セレモニーで、最後に残された鉄柱が星条旗に包まれて運び出されました
記事の一部は朝日新聞社の提供です。