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2016年10月2日付
史上最年少の将棋プロ棋士が今月1日付で誕生しました。藤井聡太さん(名古屋大学教育学部附属中2年)です。朝中高特派員で、同じ中学に通う溝口瑛士さん(1年)がインタビューしました。厳しいまなざしで盤面に向かう藤井さんも、後輩からの質問に笑顔を見せました。(寺村貴彰)
藤井さんは先月3日、プロをめざす棋士が所属する「奨励会」の三段リーグ戦を勝ち抜き、史上最年少の14歳2カ月でプロとなる四段に到達。加藤一二三九段(76)の記録を62年ぶりに5カ月、更新しました。
「プロになったときの気持ちは?」と溝口さんが尋ねると、「うれしいけれど、ここで満足してしまっては終わりなので、もっと高みをめざしたい」と答えます。
昨年10月、朝日中高生新聞の取材で「しっかりと力をつけて、最年少記録を更新したい」と話していました。記録を塗り替えたいま、「中学生でプロになったのは、後にタイトルを取った偉大な先生ばかり。自分もそこに入れたらいいな、と思います。目標は『名人』と『竜王』を取ること。そのために、純粋に実力をつけたいというのが正直な気持ちです」。
藤井さんは昨年3月、詰将棋の大会でプロを押しのけ、全問正解で優勝。終盤の読みの正確さを強く印象づけました。師匠の杉本昌隆七段は「ひかえめにいっても10年に一人の逸材。終盤に限っていえばトップクラス」と評します。
将棋を始めたのは幼稚園年長のとき。小学校に上がるころから強さはずば抜けていましたが、「戦略を語るなど、当時からプロとしての考え方を持っていた」と杉本七段。負けず嫌いも筋金入りで、思うような対局ができないと、将棋盤を抱えて離しませんでした。「これからは強くなるだけではなく、小さい子のお手本となる棋士に成長してもらいたい」と期待します。
溝口さんが気になったのは、学校の勉強との両立です。藤井さんは「できていませんでしたね」と苦笑い。三段リーグが4月に始まると、それまで半々だった学校と将棋の割合が1対9くらいになったといいます。
「学校が終わるとすぐ帰宅し、1日6時間以上、将棋と向き合いました。詰将棋は毎日欠かさず、強いコンピューターと対局したりしていました」
先輩の素顔を探ろうと、溝口さんは「自分の性格を動物に例えると何ですか?」と予想外の一手で勝負。すると、初めて言葉を詰まらせます。すかさず藤井さんの母、裕子さんが「サイ! 普段は優しいけど、対局で負けた時の怒りようを見ると怖いから」。
納得のいかない様子の藤井さん。「今は将棋のことしか考えられない『将棋星人』です。次の対局までしっかりと実力をつけていきたいと思います」
優しい笑顔を見せる藤井さん=9月、愛知県瀬戸市
藤井聡太さんに史上最年少プロ棋士の記録を塗り替えられた加藤一二三九段(76)に、藤井さんへの思いと、過去の中学生プロ棋士の印象を聞きました。(寺村貴彰)
私がプロになったときは、これほど注目されませんでした。すべての中学生棋士がタイトルを取るほど強くなったため、見直されたのかもしれません。
今までおよそ2500局は指していますが、どの一瞬もおろそかにできない緊張感があり、常に新しい気持ちで向かっています。
プロは9割が理詰めの実力の世界。ほんの数%、人知を超えた「運」もからむため、何が起こるかわかりません。たとえスランプに陥っても、怠けていなければ道は開けるはずです。
対局に向かう基礎はできていると思うので、ベストを尽くして強くなってください。期待しています。
■加藤九段から見た元中学生プロ棋士の印象は?
谷川浩司さん
「戦った中で、一番読む能力が速い。僕よりもね、どんな場合でも一呼吸速く読んでいる」
羽生善治さん
「順応性が高く、すぐ流行語を取り入れます。例えば『テンションが高い』とか。僕、使ったことないもん」
渡辺明さん
「2000年、渡辺明さんが新四段になってすぐの王位戦で戦い、きわめて張り切りました。なぜか一番闘志がわいた!」
加藤一二三九段 14歳7カ月で中学生プロ棋士に。タイトル数は8期(歴代9位)。現役最年長棋士。日本将棋連盟の公式サイト棋士データベース英語版で「Kato, one hundred twenty-three」と表記され話題に。
日本将棋連盟によると、将棋の競技人口は、1千万人以上(2014年)。将棋の人気が広がっているようです。
加藤九段は個性的なキャラクターから「ひふみん」の愛称で親しまれ、バラエティー番組への出演が増えています。
難病を患い29歳で亡くなった棋士・村山聖さんの生涯を描いた映画「聖の青春」が来月19日、公開されます。ライバルとして羽生三冠が登場。タイトルをかけて戦います。
「別冊少年マガジン」(講談社)で連載中の漫画「将棋の渡辺くん」。作者の伊奈めぐみさんは渡辺竜王の妻で、竜王の日常生活を垣間見ることができます。「ヤングアニマル」(白泉社)で連載中の「3月のライオン」(作・羽海野チカ)も高校生プロ棋士の生活を描きます。
8月末には、マス目の数が3×3の「9マス将棋」が幻冬舎から発売され、話題になりました。
中学生プロ棋士、全員がタイトル獲得
加藤さんの写真以外はどれも(C)朝日新聞社
インタビューに答える加藤一二三九段=9月、東京都渋谷区の東京将棋会館
記事の一部は朝日新聞社の提供です。