クリントン氏、「初の女性」に届かず

　米大統領選挙は9日、共和党のドナルド・トランプ氏（70）が、民主党のヒラリー・クリントン氏（69）を破り、当選を確実にしました。これまでの政治に不満や怒りを持つ人の支持を集めましたが、過激な発言には米国内外から不安の声も上がっています。（今井尚、松村大行、近藤理恵）

白人労働者らの不満を吸収

　米大統領選の勝敗は、州ごとに割り当てられる選挙人を、各州の投票で1位となった候補者が「総取り」する方式で決まります（2州を除く）。
　「再び偉大な米国に」というスローガンを掲げ、白人の労働者階級を中心に支持を集めたトランプ氏。クリントン氏がわずかに優勢と予想された激戦州でも、選挙人29人を抱えるフロリダ州と、15人のノースカロライナ州などを制しました。1年半以上続いてきた大統領選に決着がつきました。
　トランプ氏はニューヨークで勝利演説し、「米国は分断で広がった傷を修復する時だ。私はすべての米国民のための大統領になる」と述べました。米国初の女性大統領を目指したクリントン氏は敗北を宣言。「我々には打ち砕けない、最も高く、最も硬い『ガラスの天井』が依然としてある」などと語りました。
　大統領の当選は、12月の選挙人の投票をもって正式決定します。来年1月20日に第45代大統領に就く見込みです。

「内向き」の姿勢、世界に波紋

　安あ倍べ晋しん三ぞう首相は10日朝、トランプ氏と約20分間、電話で協議しました。日本政府によると、トランプ氏は「今後数年間、ともに働くことを楽しみにしている。日米関係は卓越したパートナーシップであり、さらに強化していきたい」と話したといいます。17日にはニューヨークで会談する方向で調整を進めます。
　トランプ氏は、米国の利益を第一に考える姿勢を示してきました。米国の製造業の競争力を下げるとして、地球温暖化対策の新しい国際ルール「パリ協定」からの離脱を公約。関税などをなくす環太平洋経済連携協定（ＴＰＰ）に反対で、むしろ高い関税をかける保護主義を訴えています。
　「米国は世界の警察官ではいられない」といい、世界各地の争いにかかわる姿勢は見せません。日本が在日米軍の駐留経費を全額負担しない場合、米軍撤退を示し唆さするなど、日米同盟の根幹を揺るがしかねない発言を続けてきました。日本は政策の見直しを迫られそうです。
　国際社会との協調よりも「内向き」な姿勢をとるとみられるため、各国に波紋が広がっています。

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トランプ氏　政治経験ない「不動産王」

過激な言動を繰り返す

　トランプ氏は1946年、ニューヨーク生まれ。ペンシルベニア大学で経営学を学んだ後、父親から不動産業を引き継ぎ、カジノやホテル、ゴルフ場の経営に参画。ビルを多数所有する「不動産王」で、高級店が連なるニューヨーク5番街には高層ビル「トランプ・タワー」が立っています。

最高齢70歳で就任

　妻は元モデルのメラニアさん。離婚した前の妻2人との間を含め、子どもは5人います。来年1月の就任時点で70歳。史上最高齢の米大統領となります。
　テレビ番組の司会を務めて人気を博したことはあるものの、政治の表舞台に立った経験はありません。選挙戦でトランプ氏の政策立案を支えたスタッフは、米国政治を長年見続けてきた上智大学大学院の前まえ嶋しま和かず弘ひろ教授にとっても、名前を聞いたことがない人ばかりだといいます。
　選挙戦では「地球温暖化はでっち上げ」「不法移民対策のため、メキシコの負担で国境に壁を建てる」など、過激な言動を繰り返してきました。大統領に就任すれば、軍の最高司令官として、核兵器のボタンも手にすることになります。

政策実現へ、現実路線選択か

　前嶋教授は「トランプ氏も過去の大統領と同様、政策を思い通りに進めることはできない」とみています。その大きな理由が、行政・立法・司法の三権分立が厳格に守られた国の仕組みにあります。大統領はあくまで行政の長であり、政策実現には立法を担う連邦議会の協力を取りつけることが不可欠です。
　今回、大統領選と同時に行われた連邦議会選挙では、共和党が上下院で過半数を確保。政策を形にしやすい環境は整っています。ただし、指導者層の多くが選挙戦で支援しないなど、トランプ氏と共和党との関係はぎくしゃくしています。
　そのため前嶋教授は「今後は党の指導者層とある程度妥協する、現実的な路線を選ぶのでは」と予想します。

【選挙戦で掲げた主張】

■安全保障について
「米国は世界の警察官ではいられない」「日本の核保有は悪いとは限らない」

■経済政策について
「中国やメキシコには高い関税をかける」「環太平洋経済連携協定（ＴＰＰ）には反対」

■移民政策について
「不法移民の入国を防ぐため、壁をメキシコ国境に建設する」「イスラム教徒は当面、入国禁止」

選挙戦最後の集会で演説する共和党のドナルド・トランプ氏＝8日、米ミシガン州
どれも(C)朝日新聞社

10月に本格開業したトランプ氏が経営するホテル＝米ワシントン