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朝日中高生新聞
  • 日曜日発行/20~24ページ
  • 月ぎめ967(税込み)

1面の記事から

東ロボくんの挫折に学べ

2016年12月11日付

中高生の読解力アップに生かす試み

 人工知能(AI)が囲碁で人間と対局したり、医療の現場で活用が進められたりと、AIの研究がさまざまな分野に広がっています。東京大学合格をめざす研究の中で見つかったAIの弱点を、中高生の学びに生かそうという動きもあります。(寺村貴彰)

「文意を正確に読み取る力」測るテストを考案 国立情報学研究所

 イラストの問題で、文章に合う円グラフとして、みなさんはどれを選びますか。
 国立情報学研究所が今年から実験的に始めた「リーディングスキルテスト」の一例です。文章の意味を正確に読み取る力を測るのがねらい。正解の②と答えたのは、全国の中学生284人の13%でした。
 この研究所は「ロボットは東大に入れるか」をテーマに研究を続けてきました。AI「とうロボくん」を開発するなかで、中高生の読解力が低下しているのではないかと疑問を持ったことから、このテストを考案しました。
 AIは「~以外の」「その中の」などが使われる文章で、意味を正確に理解するのが苦手です。この研究をまとめるあらのりさん(国立情報学研究所教授)は「AIの苦手分野が、中高生も苦手」と分析します。
 経済協力開発機構(OECD)は6日、各国の15歳を対象にした2015年の国際的な学習到達度調査(PISA)の結果を発表しました。日本は「読解力」の平均得点が前回から大きく下がりました=グラフ。先月発表された国際数学・理科教育動向調査(TIティS)の15年の結果でも、中2の読解力の低下を示す傾向が見られました。文章を読み、状況を理解して解く問題の正答率が、方程式など機械的に解く問題に比べて低かったためです。
 新井さんらは、中高生の読解力向上に、リーディングスキルテストを生かす考えです。これまでの調査から、読解力に大きく関係するのは「の量」「ワーキングメモリー(同時にいろいろなことができる力)」。このうち、大きく変えられるのは語彙力です。
 同時に行ったアンケートの結果、読解力の高さと「読書が好きか」「塾に通っているか」「性別」には関係性が見られず、「新聞を家でとっている」には関係性が見られました。今後は調査範囲を広げ、18年度から本調査に入ります。
 新井さんは「この記事を読んだら、教科書の見開き2ぺージを読んでみましょう。つっかえたら、読解力は危ないかもしれませんよ」。特に、話のつながりが明確な数学や歴史などがおすすめです。

「リーディングスキルテスト」の一例のイラスト
イラスト・佐竹政紀

PISA日本の平均得点の移り変わりのグラフ

東大受験あきらめた東ロボくん
得意分野を生かし、産業用に

 「東ロボくん」のプロジェクトは、AIの可能性を探ろうと2011年、国立情報学研究所が始めました。目標の一つは16年度までに大学入試センター試験で東大合格レベルに達すること。しかし先月、「東大受験をあきらめる」と発表しました。
 東ロボくんは13年度から毎年、大学入試センター試験の模試を受けてきました。今年の5教科8科目の合計得点は950点満点中525点で、全国約26万人の受験生の中で偏差値は57・1。東大文系は最低でも8割以上が目安とされ、届きませんでした。科目別で見ると、論理がわかりやすい数学や物理、大量の知識をもとに解答できる世界史は得意。問題文の意味を正確に読まなくてはならない英語や国語の成績は振るいませんでした。
 一方、23の国公立大学を含む535大学1373学部で合格率が80%以上という成果も残しました。AIに人の言葉を理解させるほど、「頭」は良くなりますが、覚えさせるデータは膨大になります。正確な情報を用意するにはコストがかかるため、少ないデータですむ方法が確立されるまで東大合格はあきらめ、「たくさんの情報を参考に答えを出す技術」という得意分野を伸ばし、産業に役立てる考えです。

膨大なデータ集め、進化するAI

診断の補助や小説執筆も

 そもそもAIとは、人間の「物事を考えたり判断したりする力」をコンピューターなどに身につけさせる技術。ゲームに使うAIを研究するやけよういちろうさん(日本デジタルゲーム学会)は「インターネットやセンサーを使って、AIは自分で情報を集め、意思を決めます。その決定に従い、さまざまな物を動かすことができる」と説明します。
 インターネットの普及で、2010年代からビッグデータが集まるようになりました。AIが自分でデータの特徴を分析する「ディープラーニング」という学習も注目されています。「AIの強みは、人間ではさばききれない膨大な情報から学習できること。情報が増えたことでAIの判断力は向上している」と三宅さん。医師の診断を助けたり、小説を書いたりするAIの開発も進みます。

囲碁ではトップ棋士に勝利

 すでに人間を上回る分野もあります。囲碁AI「アルファ碁」は今年、世界のトップ棋士の1人を破りました。国産ソフト「Deepディープ Zenゼン Go」は先月、プロ棋士に通算1勝2敗と善戦。来年3月には日本、中国、韓国の最強クラスの棋士各1人と囲碁AIによる世界戦「ワールド碁チャンピオンシップ」が開かれます。日本代表として、六冠を持つやまゆうせい(27)が出場します。
 ただ、今のAIのほとんどは、一つの分野の専門型。三宅さんは「アルファ碁も、囲碁はできても料理はできません。今後は、何でもできるAI開発が進められます」。

30年後は友達?

 45年ごろには、人間との関係が一歩進むと考えられています。「AIが人間の健康状態や好き嫌い、行動などを理解し、友達のような存在になるかもしれません」。便利な一方、AIが集めた個人情報の管理などの課題もあります。
 進歩したAIに仕事が奪われると心配する声もあります。しかし、「人間のことは人間が一番よくわかっていて、代われない仕事もある」と三宅さん。「AIと人間が協力することで、人間だけでは太刀打ちできない壁を越えることができるのでは」と期待します。

 AIで目の画像を診断している写真
AIで目の画像を診断し、病気の早期発見につなげる研究も進められています
どちらも(C)朝日新聞社

国産の囲碁AI「Deep Zen Go」との三番勝負を終え、感想を述べる趙ちょう治ち勲くん名誉名人(右から2人目)の写真
国産の囲碁AI「Deep Zen Go」との三番勝負を終え、感想を述べるちょうくん名誉名人(右から2人目)=11月23日、東京都千代田区

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