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2017年4月9日付
私たちの体重が、ほんのわずか軽くなった!? 日本の地図を作る国土地理院(茨城県つくば市)が先月、日本の重力の基準となる「重力値」を40年ぶりに更新しました。変化が最も大きかったのは新潟県佐渡市。体重60キロの高校生なら約0.006グラム軽くなったといいます。重力値って、どんなものなのでしょうか。(寺村貴彰)
空中で物をはなすと落下するのは、重力があるからです。体重など物体の重さは、その物体に働く重力の大きさで決まります。「この重力は、場所や時間によって変わります」と国土地理院測地部の矢萩智裕さん。
場所によって変わるのは、地球が地軸を中心に自転し、外向きの遠心力が働くから。地軸から地表までの距離が長いほど強い遠心力を受けます。遠心力は北極や南極で一番小さく、赤道に近付くほど大きくなります。
この遠心力と、地球の引力を合わせた力が重力です。地表上での大きさは約980ガル(ガルは加速度の単位)。天文学の父と呼ばれるガリレオ・ガリレイの名前から付けられました。遠心力が大きくなるほど重力は小さくなります=イラスト参照。
例えば北極で体重60キロの高校生は、東京(北緯35度)では約210グラム軽く、赤道上では約300グラム軽くなります。健康機器メーカーのタニタ(東京)はかつて北海道用、本州用、沖縄用と3種類の体重計を発売していました。2005年からは、地域を設定できる機能をつけたデジタル体重計も出しています。
時間がたって地球が変化することも、重力に影響を及ぼします。「月の引力や、地中に埋まっている物質、災害による地面の変化なども関係する」と矢萩さん。
近年、地殻変動の影響で実際の重力値との差が大きくなったことや、機器の性能が向上したことから、より精度の高い重力値を求める声が高まっていました。
そこで国土地理院は今回、2002~16年に全国263カ所で測定した重力値を発表。11年の東日本大震災や16年の熊本地震の影響も含まれます。ただし、佐渡市でなぜ変動が大きくなったのかは、わかりません。
基準がずれていると、地図用の標高を正しく決められなかったり、重さを正しく量れなかったりします。
例えば、1キロの金を沖縄から北海道に持っていき、同じはかりで量ると、北海道の方が1グラム重くなります。重力値ではかりを補正しなければ、取引にも影響が出ます。
今回の見直しは、安心な暮らしや、重力を使った日本の研究の発展につながるといいます。
重力値は、真空状態にした装置の中で物を自由落下させ、落とした距離と時間から求めます。精度は小数点以下6けたまで。ばねの細かい伸びを測定するという少し簡易な方法もあります。
重力は目に見えないため、意識されることがほとんどありません。矢萩さんは「私たちの生活を陰で支えている大切な情報と知ってもらいたい」と話しています。
イラスト・若泉祥子
矢萩智裕さん
重力値を測る「重力点」を示す標識。東京の羽田空港や、大阪(伊丹)空港などでも見ることができます
重力値を測る装置=どちらも3月、茨城県つくば市の国土地理院
記事の一部は朝日新聞社の提供です。