- 日曜日発行/20~24ページ
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2017年6月11日付
顔が変形していたり、アザや傷などがあったり――。特徴的な外見のために、いじめや差別などさまざまな困難に直面する人たちがいます。こうした困難さは「見た目問題」とも呼ばれています。見た目問題を抱える当事者の声を集めた本が出版され、話題になっています。本に登場する2人に思いを聞きました。(近藤理恵)
僕は顔の左側に大きな赤いアザがあります。「単純性血管腫」というもので、生まれつきです。
小学生の頃からクラスメートには無視され、友だちを作ることができませんでした。他人の視線が気になるし、「こんな自分が話しかけたら迷惑だろう」と思い、学校では誰とも話さない生活を続けてきました。
小学校の先生から「顔にアザがあるからお前には将来がない」と心ない言葉を言われたこともありました。その言葉が忘れられず、「将来はどうなるんだろう」と不安でした。死ぬことも常に考えていましたね。
高校卒業後、大学に進学したものの、うつ状態になり1年で中退。その後、部屋からほとんど出ず、何もしないひきこもり生活も経験しました。
人生を大きく変えたのは21歳の時、千葉の自宅から自転車で、沖縄にある日本最西端の与那国島と、有人島では最南端の波照間島を目指す旅に出たこと。旅先では、地元の人や旅人が話しかけてくれたり、食べ物をくれたりしました。やさしさに触れ、自転車に乗りながら一人で泣いたこともあります。
数カ月におよぶ旅を終えたあと、達成感から初めて将来に希望が持てました。福祉を勉強したいと、再び大学を受験し、早稲田大学に入学しました。大学で入ったボランティアサークルで初めて僕は、仲間の一員として見てもらえました。心を開くことができたのです。
見た目がいい方が、得すると思います。「人は外見じゃない」とも言いづらい。でも、見た目だけが全てを決めるわけではありません。自分の好きなことを見つけ、強みにしてほしい。僕と同じようにアザなどで悩んでいたら、若いうちに自身の症状を話す機会に慣れた方がいいと思います。
また、周りに僕のような人がいるかもしれません。そんな時は「おせっかい」を焼いてください。一歩ふみこんで関わることは、きっと僕のような人の人生に影響をおよぼすと思います。
私は唇や上あごにさけ目が入った「口唇口蓋裂」の状態で生まれました。鼻と口の間に骨がないので、腰の骨を持ってくるなどの手術を10回近く受けました。昔はかみ合わせが悪かったのですが、今は生活上で困ることは特にありません。
小中学校では、見た目をからかわれるいじめにあいました。「口が気持ち悪い」とか「死ね」とか――。「なんで悪口を言われなくてはいけないのだろう」と、ずっと思っていました。友達は数人いましたが、学校は楽しい場所ではなかった。
でも、高校はまったく違いました。絵を描くことが好きだったので、埼玉県の公立高校のデザイン科に進みました。
そこは本当に個性的な人たちばかりで、いい意味で私の見た目に関心はありませんでした。みんなそれぞれ熱中していることがあったのです。ゾンビだったり、ポケモンのキャラクターだったり、マニアックなはまり方をしていました。
それまで自分は見た目のせいで目立っていると思っていましたが、ここでは何か好きなものを持たないと埋もれてしまうと感じました。内面や自分の好きなことを考えるようになったら、気にしていた見た目が全然気にならなくなりました。
高校では友達に恵まれました。手術のことも笑って話していましたし、友達も手術のあとを「見せて! 見せて!」と言ってきましたね。
見た目問題は、見た目がどうこうではなく、結局は環境なんだと思います。私は環境が変わったら何も言われなくなりました。学校は狭い。でも、世界は広い。たかが全校生徒に嫌われても困ることなんてありません。自分に合う世界は、きっと見つかると思います。
『顔ニモマケズ』の著者、水野敬也さんは、見た目問題に取り組むNPO法人「マイフェイス・マイスタイル」(MFMS)の活動を知り、MFMSと一緒に本を作りました。MFMSは誰もが自分らしい顔で、自分らしい生き方が楽しめる社会を目指して活動しています。代表を務める外川浩子さんが、2006年に弟の正行さんと設立した団体です。きっかけは、かつて交際していた男性が、顔に幼い頃のやけどのあとがあり、周囲から必要以上にじろじろ見られたりして悩んでいると知ったことです。
外川さんによると、団体には、アザや口唇口蓋裂のほか、脱毛症や、色素が作れないため、皮膚や体毛が白いアルビノの人など、さまざまな症状の人が参加しています。
「顔のアザや傷など外見に症状がある人の多くは、外見に対して心ない言葉を言われたり、いじめられたりしたことがある」と言います。見た目問題は、個人の問題ではなく、「違いを排除する社会の仕組みの問題」と指摘します。
だからこそ「いじめを乗り越えてきた当事者の方の話などは、症状がない人も共感するのではないか」と外川さん。『顔ニモマケズ』でも、当事者の声を通して、現代の社会で「幸せになる方法」を示しています。外川さん自身も「たくさんの当事者の方から生きるヒントをもらいました」。
外川さんは、見た目問題がタブー視されることも懸念しています。「中には聞かれたくない人もいるので、一概には言えません。でも、友人なら失礼のない聞き方をして、教えてもらえばよいのでは」と考えています。
「世の中には、見た目に限らず、多様な人がいます。みんな違ってそれでいいと感じてほしいですね。当事者の方には『一人じゃないよ』と言いたい。でも、もし『一人』でも大丈夫。周りと違っていても、心配しないでください」
「長い間、人と話すことを避けてきた」という三橋さん。取材時は、ときおり笑顔を交えながら明るく話してくれました。自転車は今でも好きで乗っているそうです=5月5日、東京都墨田区
タガッシュさん(仮名)。大好きなイラストなどの発表の時に使っている名前です。手術あとはあまり目立たず、言われないとわかりません=4月30日、東京都台東区
『顔ニモマケズ』の出版記念会に登場した当事者と、著者の水野敬也さん(後列中央)=4月13日
(C)朝日新聞社
2月に出版された『顔ニモマケズ』(文響社)。三橋さん、タガッシュさんら9人の当事者が登場
外川浩子さん
記事の一部は朝日新聞社の提供です。