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「向く・向かない」という問いに対する答えは、前回書いた「リターン」をどこに求めるかによって変わってきます。
例えば2人の新入社員が上司に「ゴルフやってみないか?」と誘われたとします。A君はゴルフに熱中し、休日は毎日ゴルフの練習。どんどん上達したかわりに、「私よりゴルフのほうが大事なの?」と彼女にフラれてしまいました。B君は運動神経ゼロでゴルフは下手だけど、社内外にゴルフ仲間ができて、仕事で成果をあげ、友だちも増え、体脂肪も減りました。さあ、A君とB君のどちらが「ゴルフに向いているタイプ」なのでしょうか? それは「ゴルフをやることにどんなリターンを求めるか」によって決まるのです。
実は「B君タイプの子」というのは存在しないと私は思っています。B君のようにゴルフを楽しむのに必要なのは本人の資質ではなく、B君がどんなゴルフ仲間と出会えるかです。受験の場合なら、親と塾教師、そして塾の仲間。「成績を伸ばすことももちろん大切だけど、焦らずに、まずは塾通いと勉強を楽しもう」という環境のなかにいれば、本人の「タイプ」に関係なく、B君のようにゴルフや塾通いを楽しむことができるはずです。
では、大切なもの(休日や彼女)を自ら捨ててでも、向上心をもって上達する「A君タイプ」の子はいるのでしょうか。
一番大切なのは、「一つのことに夢中になり、それを継続できること」です。それは必ずしも受験勉強に直接関係するものでなくてもかまいません。ただし「知的好奇心」と「文字情報の収集」(大人向けの文章を読むこと)という二つの要素は不可欠です。
例えば「鉄ちゃん」や「歴女」には「A君タイプ」の資質があります。去年は金魚の世話が一番大切な時間で愛読誌が『アクアリウム』という教え子もいました。ただ鉄道模型を走らせたり、金魚に餌をやったりするだけでなく、「もっと深く知りたい」と思い、大人向けの本や雑誌を読むようになる。すると読解力がつき、「語彙」が増えます。自分が夢中になっているジャンルの文章なら、知らない用語や難しい表現があっても何となく大意は捉えられるし、わからない言葉があれば調べようとします。それが理科や社会のテキスト・参考書を読み、私たちが授業で語る話を「聞き取る」ための素地になっていくのです。
「そんなことより宿題やってよ」と親がイライラするくらい、戦国時代の城造りやシダ植物の育て方の本に夢中になっている子、同じ趣味の子はいないから友だちも少なく、末は立派な「オタク」になりそうな子。そういう子は間違いなく「A君タイプ」の資質をもっていますから、少し長い目であたたかく見守ってあげてほしいと思います。
■次回は「中学受験をする」と決めた際の、親の心構えについてお話しします。
【プロフィール】
後藤卓也(ごとう・たくや)
オリジナルテキストを使い、専任講師だけが教壇に立つことで知られる首都圏の難関中学受験名門「啓明舎」(さなるグループ)塾長。東京大学大学院教育学研究科博士課程修了。著書『秘伝の算数』、『新しい教養のための理科』などは中学受験生のバイブルとなっている。
啓明舎の公式サイト www.keimeisha.jp/index.html
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