政治編;曽我 豪記者(朝日新聞政治部)
ちょっと、お兄さん! 前からひとついいたかったの。わたしたちが新聞を読んだり、ニュースを聞いたりして、頭が痛くなってくるのは、むずかしいことばのせいなのよ。
ま、最近では、タイホキョダクセイキュウだね。
ドラクエに出てくるキャラクターみたいな名前だなあ。
逮捕許諾請求かあ。きみたちの生活にはあんまり関係ないけど、政治にとっては大切なことだから、きょうはちょっとがんばって聞いてね。
|
逮捕された鈴木宗男議員(顔写真)を乗せて、東京拘置所に入るワゴン |
ケン 「逮捕許諾請求」って漢字ばっかりじゃん。
―鈴木宗男議員が逮捕されたニュースで初めて聞いた子が多いかもね。国会議員はね、憲法で不逮捕特権というのがみとめられているんだ。国会をやっている期間中は原則として逮捕されない、という決まりだ。
ジャン へえ、どうして?
―政治家は、国会で法律をつくったり、予算を話し合ったりする大切な仕事をしている。警察や検察の不当な圧力で議員が逮捕され、大切な仕事がじゃまされてはいけない、という考え方なんだ。
ポン じゃあ悪いことしてもいいの。
―そこで逮捕許諾請求というものが出てくる。国会がOKするなら、逮捕してもいいというわけ。
ジャン あら、いいじゃない。
―でも、少しややこしい手つづきが必要になる。まず捜査した検察などが裁判所に逮捕状をもとめる。次に内閣に逮捕許諾要求書をおくる。それから国会に許諾請求して、議長が国会の整理役の議院運営委員会にまかせる。その委員会が「秘密会」という会議を開いて審査し、最後に本会議で逮捕をみとめるかどうか議決するんだ。
ケン 議員は意見をいえないの。
―秘密会でできる。弁明というんだけど、鈴木議員はそこで逮捕されるようなことはしていないと主張した。秘密会には法務省も出席して、証拠をしめしたり、委員から逮捕が必要かどうか、質問を受けたりする。
ポン こういうことって、よくあるの?
―国会が議員の逮捕をゆるしたのは、1997年に友部達夫・元参議院議員が逮捕されたとき以来だよ=表を参照。
【1990年代の逮捕許諾請求】 |
<衆議院> |
|
|
1994年
|
中村喜四郎 |
(ゼネコン汚職であっせん収賄容疑)=許諾 |
95年
|
山口 敏夫 |
(2信用組合事件で背任容疑)=許諾 |
98年
|
新井 将敬 |
(日興証券事件で証券取引法違反)
=本人の自殺で請求を取り下げ |
<参議院> |
|
|
97年
|
友部 達夫 |
(オレンジ共済組合事件で詐欺容疑)=許諾 |
ケン ふーん。
―94年の中村喜四郎議員の逮捕のときは、同じ自民党の議員が「国会議員の不逮捕特権は、犯罪の容疑者を守るものではない」といった。その発言をしたのは、皮肉なことに、今回逮捕された鈴木議員だったんだよ。
ジャン 逮捕されると国会議員をやめちゃうの。
―人それぞれだね。「すぐに議員をやめると、まるで罪をみとめたようじゃないか」。そう思う人もいるんじゃないかな。中村議員はやめなかったし、鈴木議員もいまのところやめるとはいっていない
ケン 選挙で落選しなきゃ、いつまでも議員でいられるの。
―いや、かりに裁判になって、有罪が確定するとやめなきゃいけない。
ジャン 政治家って、テレビで見ていると「道徳を勉強しなさい」とか「お父さんお母さんを大切に」とかいってるじゃない。それで逮捕されるって、どういうこと?
―まったくその通り。政治家たちには、有事法制関連法案とか、もっと国会で話し合うべき仕事があったんだ。ところが、事務所の代表だった人がつかまった、秘書の給料をごまかした、そんな話ばかりだ。
ポン 「なげかわしい」って、近所のおじいちゃんがいってた。
―もちろん、政治家の汚職事件がつきないのは問題だ。みんな、いまの政治には「トホホ」と感じてると思うよ。
(2002年6月23日)
|