市川博正記者(編集部)
小泉首相が持ち帰った答えは、とてもショックだった。
朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の金正日総書記との話し合いのことだね。北朝鮮に拉致、つまり、つれさられた日本人のうち、生きているのは5人で、8人もの人が亡くなったと報告された。
家族の人が泣いている写真を見たわ。もっとくわしく話して。
ケン まず、拉致事件について教えて。
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日朝首脳会談をうけて、記者会見する拉致された人たちの家族。横田めぐみさんの母親はマイクに手をそえて、「まだ生きていることを信じつづけてたたかっていきます」と話しました=東京都千代田区の衆議院第一議員会館で |
―1970年代後半から80年代初めにかけて、日本海の海岸などで、とつぜん姿を消す人が相次いだ。
散歩中の恋人たち、留学先のヨーロッパから、さそい出された若い女の人……。力ずくで船に乗せられ、さらわれたケースも多いとみられている。
ポン こわい!
―当時まだ中学1年生、13歳だった新潟市の横田めぐみさんの場合は、こうだ。25年前の秋、バドミントン部の練習を終えて帰るとちゅう、家の近くで友だちと別れた。それっきり、行方がわからなくなった。
娘をとりもどすため、署名活動などをつづけてきた両親につたえられたのは「死亡」という悲しい知らせだった。
ジャン ひどい!
でも、どうして、横田さんが「拉致された」とうたがわれたの?
―5年ほど前、韓国にのがれた北朝鮮の元工作員、つまり、スパイ活動などをしていたとされる人から、「似た女性を北朝鮮で見た」という情報が警察庁につたわった。
ポン なんの目的で、人をつれさったの?
―秘密の機関で日本語を教えさせたり、工作員が、日本人の身分を利用し、対立していた韓国にもぐりこんだりするため、ということのようだ。会談で金総書記がみとめ、「率直におわびしたい」とあやまった。いままでの北朝鮮からは、考えられない変化だ。
ジャン でも、それって誘拐じゃない! 日本政府は何もしなかったの。
―5年ほど前から、外務省を通じて、拉致問題の解決をもとめてきた。でも、北朝鮮は「拉致など、いいがかりだ」と相手にしなかった。
ケン なぜ急に、拉致をみとめたの。
―北朝鮮は経済がとても苦しい。災害がつづいて作物がとれず、食糧不足でうえ死にする人もいるといわれている。「日本の援助がどうしてもほしくて、拉致をみとめるほかなかったのだろう」とみる人が多い。
ジャン アメリカとの関係も気にしているのよね。
―うん。テロのあと、アメリカは「危険な相手は軍事力でやっつける」という強い態度をとるようになった。アメリカは、北朝鮮が核兵器の開発をしているのではないかとうたがい、イラン、イラクとともに「悪の枢軸(中心)」とよんで、強く警戒している。北朝鮮には、日本と国交の話し合いを進めることで、アメリカとの関係もよくしたい、という考えもあるようだ。
ケン どうもわからない。拉致事件を起こすような国と、日本が国交をむすぶ必要があるの。
―たしかに、「8人死亡」という報告をきき、「国交なんてとんでもない」とおこっている人は多い。でも、小泉首相は、こんなことが起きないようにするためにも、話し合いの場を持ち、国どうしのつきあいをきちんとすることが大切と考えたようだ。北朝鮮を、国際社会から「仲間はずれ」にしないことが、世界の平和にもつながる、ともいっている。
ジャン 「死亡」とつたえられた家族は、やりきれない。
―政府が家族に情報をすぐつたえなかったことも、問題になっている。
死亡は本当か、なぜ亡くなったのか。亡くなったとされる日が同じ人がいたり、年齢があまりに若かったりと、北朝鮮の情報には不自然な点も多い。生きている人の帰国を早く実現させることは、もちろんだ。10月から国交をむすぶための話し合いが始まる予定だけれど、こうした問題をきちんとすることが、日本政府の重要な課題だ。
(2002年9月21日)
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