抜井　規泰記者（朝日新聞スポーツ部）

ケン

　プロ野球の近鉄とオリックスがひとつになるって聞いたよ。パ・リーグは6チームから5チームにへるのかな？

　合併っていうのよね。セ・リーグとパ・リーグをいっしょにして、一リーグにする話もあるとか……。

　リーグがひとつ？

　あわてないで。決定したわけじゃないんだ。まずは、どうして合併問題が出てきたかを話そうか。

　プロ野球の将来を左右する大きな問題
　パはどこも経営が苦しい　合併で「損」が分け合える

合併の話は両チームの選手やファンにショックをあたえました。上の写真は、試合前に話をする近鉄・中村選手（手前）とオリックス・谷選手。下の写真は、合併反対をスタンドでうったえるファン

　――プロ野球にはセ・リーグとパ・リーグのふたつのリーグがある。セ・リーグは巨人、ヤクルト、横浜、中日、阪神、広島の6球団。パ・リーグは、去年日本一になったダイエーのほか、ことしから北海道に移転した日本ハム、ロッテ、西武、近鉄、オリックスの6球団だ。ただ、パ・リーグの球団は、どこも経営が苦しい。

　ジャン　なぜ？

　――お客さんが多くないし、選手の給料は高い。経営の努力も足りないと思うよ。近鉄の場合は、1年間で約40億円の赤字。その損は、球団の親会社が負担している。ロッテなら、お菓子などをつくるロッテ本社。西武や近鉄は鉄道会社が、球団の損をひきうけているんだ。

　ケン　そんなに損が出ていたら、親会社は大変だね。

　――だから今回、近鉄とオリックスの合併話がもちあがったんだね。「2チームをひとつにして、おたがいの損を分け合いませんか」と。

　ポン　近鉄は前に、球団の名前をお金で売ろうとしたって聞いたよ。

　――ことし1月末に、球団の名前を年35億円で売る計画が明らかになった。でも、ほかの球団に反対されてできなかった。そこで、球団そのものを売ろうとしたが、買い手が見つからなかった。それで、今回の合併へ話が進んだんだ。

　ケン　プロ野球って、そんなにかんたんにチームをいっしょにしたり、新チームをつくったりできるの？

　――球団を実際に運営している人たちでつくる「実行委員会」と、球団の持ち主が集まる「オーナー会議」でみとめられないとダメだ。実行委員会は合併案を大すじでみとめたけれど、オーナー会議はこれから開かれるんだよ。

　ジャン　みとめられれば近鉄とオリックスがひとつになって、パ・リーグは五チームになるのね。

　10球団での１リーグ案も　ファンの声はおきざりに

　ポン　5球団でパ・リーグはつづけられるの？

　ケン　ちがうよ。1リーグになるんでしょ？

　――パ・リーグのロッテや西武が、1リーグ化をもとめている。セ・リーグの巨人や阪神も、もう1チームへらして10球団での一リーグを提案している。

　ジャン　なぜ一リーグなの？

　――本音はみんな巨人と試合をしたいんだ。巨人戦はかならずテレビで放送しているよね。巨人戦を放送するために、テレビ局は球団に1試合1億円をはらっているといわれている。巨人以外のセ・リーグの5球団は、年140試合なら14試合の巨人戦を主催する。それを放送する権利（放映権）をテレビ局に売るだけで、年14億円がもらえる計算だ。

　ケン　一リーグになると、セの5球団は巨人戦がへるよ。

　――放映権の収入もへるね。だから、1リーグに反対の球団もあるんだ。

　ポン　お金の話ばっかり。

　――たしかに、ファンの声が無視されているよね。1リーグになると、日本シリーズもオールスター戦も、両リーグを代表して戦ういまの形ではなくなってしまう。プロ野球へのファンの興味を大きく左右することになるのにね。

　ケン　選手はどう思っているのかな？

　――球団がへれば、プロとしてプレーできる選手の数もへる。合併が決まれば、近鉄とオリックスの選手の行き先なども話し合われることになるけど、ほかの球団の選手にとっても、他人ごとではない。

　ポン　大変だあ。

　――6月末には、近鉄球団を買いたいという会社が出てきたけれど、近鉄球団は「ことわった」といっている。2リーグ制のままいくのか、それとも球団数をへらして一リーグに進むのか。今回の合併騒動は、これからのプロ野球のあり方が決まる大変な問題だ。かんたんには落ちつきそうにもないね。

（04年7月3日）