――有権者は選挙で、自分が住む都道府県や市町村(自治体)の首長(知事や市長など)や議員を選ぶけど、任期の四年間のうちに「こんな人を選んだのはまちがいだった」ということはありえるよね。そんなときに、地方自治法に定められたリコールという制度に基づいて、任期途中で首長や議員を辞めさせるための手続きをとることができるんだ。
アメリカの地方制度にあるリコール制度にならって、一九四六年に定められたよ。
ケン 辞めさせることができるのは、首長と議員だけなの。
――議会を解散させることもできる。阿久根市では議会が中心となって住民が市長を辞めさせようとしていて、名古屋市では、市長を中心とした住民が市議会を解散させようとしている。
ジャン 手続きはそれぞれちがうの。
――まったく同じ。まず、リコールに賛成する有権者の3分の1の署名が必要。ただ、有権者が40万人以下の自治体では、3分の1なんだけど、40万人を超える自治体は40万人の3分の1と40万人を超えた分の6分の1を合わせた数になる。阿久根市は約6700人分、名古屋市は約36万6000人分の署名が必要だ。
自治体の選挙管理委員会(選管)が、住所や名前など署名簿に書くことが必要なものがすべて書かれているかどうかなどをチェックして、ミスがあるものなどをのぞいた後、数を満たしていれば、住民投票を行う。住民投票で過半数の賛成を得られれば、リコールが成立。成立すると、首長や議員はクビになり、新しい首長や議員を選ぶ選挙が行われる〓図を参照。
ポン 署名でも投票でも人数が決められていて、きびしいんだね。
――あまりにもきびしすぎるのではないかという意見もあって、リコールを担当する総務省では今、見直しをしようという議論を進めているんだ。
ケン どんな点を見直そうとしているの。
――署名を集める期間と署名の数。期間は、都道府県の場合は2か月以内、市町村の場合は一か月以内なんだけど、たとえば名古屋市のように大きな都市では、人口が多いため、一か月という短い期間で必要な数を集めるのは、かなり難しい。
2003年4月から07年3月までの首長、議会、議員に対するリコールは、住民投票までいかなかったものを含めて、約160件。でも、都道府県は制度ができてからゼロ。これは、都道府県のような大きな自治体では、決められた期間に必要数の署名を集めることがいかに難しいかということを表している。
住民のために導入されたリコール制度なのに、大きな都市や都道府県では事実上成立しないというのは問題。アメリカでは、州によってちがうけど、署名は有権者の四分の一か五分の一で大丈夫なんだ。
ポン 阿久根市と名古屋市の今後はどうなるの。
――阿久根市は15日、1万人以上の市民の署名簿を市選管に提出した。この数は有権者数の過半数に達し、必要な数を約3700人も上回っているため、12月にも住民投票がありそうだよ。
名古屋市は9月27日までに署名を集める必要があるけど、こちらは、必要な数の署名が集まらない可能性が高いと見られているよ。
▼阿久根市の市長のリコール問題 竹原信一市長が、副市長をだれにするかなど、原則的には議会が決めるべきことを、議会を開かないまま決める専決処分をくり返すなどしていて、市議会を中心にした住民が反発している
▼名古屋市の市議会のリコール問題 河村たかし市長が市民税をこれから先ずっと1割減税する条例案を市議会に提出したが、市議会が「財源が不安」などとして否決し、両者が対立。市長が中心となって住民といっしょにリコールを成立させ、市議会を解散し、新しい市議会で条例案を可決させようとしている |