2012年11月4日掲載

 

 

 

 

竜が呼んだ娘
◎ 2 ◎
 
作:柏 葉 幸 子

 

 

 今まで竜に呼ばれた子の中に、
「どうして、あの子なのだろう?」
と、村人がけげんに思う子もいたらしい。竜がどんな基準で子どもを呼ぶのかは、誰にもわからない。


 ミアは、どうして?といわれる子の中にも自分は、はいりはしないと思っている。


 ミアは2歳になるまで、立ち上がることも話すこともできない、泣きも笑いもしない赤ん坊だったそうだ。ミアの母親は夫に先立たれ、1人でミアを育てていた。


 そんな母にミアは重荷だったのだろう。ミアが高熱を出した夜に、母は姿を消した。ミアの将来を悲観して川へ身を投げたという人もいれば、村を出ようと切り立った崖をよじ登ろうとして、転がり落ちて死んだという人もいる。


 このまま生きのびても、4、5歳までの寿命だろうといわれたミアが、ここまで育ったのは母の姉、二のおばのおかげだ。


 他の10歳の子に比べれば、体も小さいし、歩くのも走るのもどこか不かっこうだ。話す言葉もゆっくりだ。それでも、ミアは10歳の女の子になった。


 二のおばは、ミアをそれはそれはていねいに、他の母親たちの何倍も手をかけて育てた。二のおばは、何でもよくできて、何でもよく知っていた。二のおばが母親がわりでなかったら、ミアはここまで育たなかったろう。


 あんなミアをここまで育てた二のおばを、陰で魔女だからだとうわさする人たちもいた。そんなうわさのせいか、二のおばはずっと独身だ。
「私は誰にも望まれず、好きになった男の人もいない。家庭をもつことができないから、世話をやくものが欲しかっただけよ」


 二のおばはいつもいう。


 二のおばなら、何十人もの大家族の女主人もらくらくこなしていけただろう。


 二のおばは、竜に呼ばれて村を出て行った子どもだったそうだが、何十年か後、罪人として村につれもどされた人だ。魔女の弟子になったと、うわさされていた。


 祖父は、
「一族の恥」
といって、自分の屋敷うちに住まわせてはいるが、口をきこうともしない。そして、他の罪人たちのように、家族の中でも本当の名前を呼ぶことを許さない。ミアや他のいとこたちが2番目のおばだから二のおばと呼ぶように、村人たちにもそう呼ばせていた。


 ミアは二のおばと2人、今しているように祖父の家の井戸から水をくみ、畑のはじにある二のおばと暮らす家へ水を運び、かゆを煮て、畑をたがやし、羊を飼い、毛を刈り、糸をつむいで、何十年も暮らしていくのだと思っている。祖父母も他のおじやおばたちも、何人もいるいとこたちも、ミアは一生村で生きていくのだろうと思っているとミアは思う。

 

 


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