福島第一原発事故から教訓学び取れ


 


報告書の内容に違い 見比べ考えて

 

 東京電力の福島第一原子力発電所で事故が起こったのは、なぜなのでしょうか。防ぐ方法はなかったのでしょうか。今後はどうすればいいのでしょうか。事故の原因や背景を調べ、教訓を学ぼうとする複数の調査委員会がそれぞれの報告書をまとめつつあります。

 

横路孝弘衆院議長(右)に報告書を提出する国会原発事故調査委の黒川清委員長=7月5日、国会内で ©朝日新聞社

 

国会原発事故調査委員会に 呼ばれ、冒頭で原発事故と その被害者に対するおわび の言葉を述べ、頭を下げる 東京電力の清水正孝前社長 =6月8日、東京・永田町 の参院議員会館で ©朝日新聞社

 

 

 

 

 

 どんな事故だったんだっけ?
 東電福島第一原発の原子炉が昨年3月11日に停電になってしまった。真っ暗になって、ポンプも動かないし、バルブも開けられなかった。冷却のための水を原子炉に送り込めなくなり、内部の圧力も下げられなくなった。そうこうしているうちに、放射性物質をたくさん含む核燃料が熱くなって溶けてしまった。それの一部が原子炉の外に押し出されて、風に乗って、あちこちに流れていった。


 爆発したよね。
 うん、原子炉が入っている建物が内側から爆発して壁が吹き飛んだ。


 だいたいのことはわかってるんじゃないの?
 いや。原子炉の中を見ることは今もできないから、燃料がどのように溶けてどこにあるかがはっきりしない。いつ、どの経路で、どのようにして放射性物質が外に出たのかも、推測しかできないんだ。


 だから調べているんだね。
 事故を調査する委員会だから、略して「事故調」と呼んでいる。一つだけじゃなくて、いくつかある。
  福島第一原発を持っていて、事故を起こした当事者でもある東京電力が社内の人たちで作った委員会がある。そのほかに、政府が作った委員会、国会が作った委員会、民間の財団法人が作った委員会があって、学者や弁護士がメンバーになっている。


 へー、そんなにいろいろあるんだ。
 民間事故調は2月末に報告書を出した。東電社内の事故調は6月20日に報告書を出した。国会事故調は今月5日に出した。政府の事故調は昨年暮れに中間報告を出し、今月下旬に最終報告書をまとめる予定だ。


 そんなにいろいろあって混乱しないの?
 それぞれの委員会で何を大切なことと思うか、どこを一生懸命調べるかが違っている。一つの事実についても、まったく違う結論になっているのもある。
  それぞれの委員会の見方を比較したり、どの委員会が言っていることが本当なのかを考えながら読んだりすることができる。


 へー、どんなところが違うの?
 例えば、昨年3月11日当日に1号機の原子炉を冷却しなかったことがその後の事故拡大の原因になったんだけど、政府事故調はこれについて、「非常用復水器」という冷却装置が動いていなかったのに東京電力の人たちが「動いている」と間違って思い込んでいた事実を明らかにして「対処の遅延の連鎖を招いた」と指摘した。これに対して東電の報告書は、この思い込みが事故への対処に影響を与えたとは考えられないと言った。


 ふーん。
 こんな例もある。東京電力の社長が一時、福島第一原発からの退避を政府に申し出たが政府がそれを拒否したという話がある。これについて民間事故調の報告書は「菅首相による東電撤退の拒否が東京電力により強い覚悟を迫り」と書いている。でも、東京電力の報告書は「社員は身の危険を感じながら発電所に残って対応を継続した。この行為は、総理の発言によるものではない」と主張している。


 どれが正しいの?
 どっちが正しいと最初から決めるんじゃなくて、そこは新聞などで報告書をよく読んで、自分の頭で考えて。新聞社とか報道機関もこの事故を調べているから、その記事や番組も参考になるかもしれない。

 

 東日本大震災 昨年3月11日午後2時46分、東北地方の沖合の太平洋の海底の下を震源として国内観測史上最大規模の地震が発生し、10bを超える高さの津波が岩手県から福島県にかけての海岸を襲った。
  東京電力の実質国有化 6月27日の東電株主総会で、東電の実質国有化が決まった。政府は1兆円を出資する代わりに、経営陣を選ぶことができる議決権の過半数を握る。
  2030年のエネルギー政策 発電量に対する原発の割合を@ゼロA15%B20〜25%にする(10年は26%)――という3つの選択肢があり、政府は8月末に決める予定。

 

 

朝日新聞報道局 奥山俊宏

1966年生まれ。89年から朝日新聞記者。 東京社会部などを経て2006年から特別報 道チーム。ネット新聞「Asahi Judiciary」 の編集も担当。著書に『ルポ東京電力 原発危機1カ月』(朝日新聞出版)など。

 

 

2012年7月8日

 

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