財政出動と成長戦略 投入先が鍵
民主党から政権を奪い返した自民党の安倍晋三政権は、経済重視の姿勢を打ち出しています。とたんに外国為替市場で円が安くなり、株価が上昇――。経済界に歓迎ムードが広がっています。安倍さんの経済政策「アベノミクス」は、どんな内容なのでしょう。
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Q アベノミクスってよく新聞やテレビで話題になるけれど、何のこと?
A 安倍さんと経済学(エコノミクス)をあわせた造語だけれど、この3年間続いた民主党政権が「分配」ばかり重視したのと違って、経済を大きく「成長」させよう、というんだ。
民主党は「子ども手当」をはじめ、高校授業料の無償化、農家の所得補償など「お金をあげる」(分配)ことばかりやった。だから消費税も上げることになったんだ。それに対して自民党の安倍さんは経済を成長させて、国を豊かにしよう、それによって税収を上げようと考えたわけ。
Q ふーん。どうやって成長させるの? 「失われた20年」とよく言われるけれど、日本はずっと経済成長がなかったんでしょ。
A そうだね。安倍首相は1月11日の記者会見で、財政出動、成長戦略、金融緩和の「3本の矢」に取り組み、20兆円規模の緊急経済対策を実施すると表明した。
財政出動は国のお金を使うこと。震災復興はもちろん、笹子トンネル(山梨県)の天井板落下事故でわかるような公共建造物の老朽化対策などに5・5兆円を投じ、さらに、これから伸びそうな新産業に着目して成長戦略に12・3兆円を投入する。
これとは別に日銀に圧力をかけて、市中に回す資金を増やす金融緩和をしようとしているんだ。
Q それって結局、「バラマキ」と言われて評判の悪かった民主党と同じじゃないの?
A そうだね。今年度の国債発行額は52兆円になりそうで、民主党政権が「44兆円以下」と決めていた借金の総額抑制ルールが破られることになった。民主党は有権者など個人にばらまいたけれど、自民党は従来型の公共事業で業者にばらまくことになりそうだ。
実は、自民党に政権が再び転がり込むと見て、昨年暮れの総選挙の前から霞が関の各省庁は自分たちがやりたい政策や事業をいっぱい自民党に持ち込んでいた。それが自民党の政権公約になったんだ。
選挙戦の最中は金融政策を争点にしていたけれど、いざ政権を掌握すると、旧来型のものがいっぱい入り込んだ、という印象だね。金融政策の影が薄くなった。
Q 金融政策って?
A リーマン・ショック以降、世界の中央銀行は市中に回すお金を増やしたけれど、日銀は出し渋ってきた。米国や欧州が市中に回したお金のほうが多かったからドルやユーロは下がり、逆に出し渋った円は相対的に高くなった。安倍さんは日銀に緩和を促し、金融緩和期待から円高は是正され円安になった。
円安・株高↓輸出増・消費増↓企業業績の向上↓設備投資の拡大、という経済の好転が予想されたため、市場が先走って円安・株高現象が起きた。
ここまでは、まだいい。金融緩和は、業種や企業に分け隔てなくあまねく影響があるからね。問題は、財政出動と成長戦略にある。
Q 伸びそうな産業に重点的に政府が資金を投じるのはいいんじゃない?
A でも何が伸びそうか、決めるのは自民党の政治家と政府の役人だよ。一番ビジネスに縁遠い人がどうやって「将来はこれが伸びそう」って選ぶことができる? 何が成長する産業かわかるのなら、普通は自分でやるでしょ。公平に行き渡るのではなく、省庁に選ばれた特定の人にお金が回ることになりかねない。これって恣意や裁量が働きやすい。無駄の山ができるかもよ。
日本銀行の役割 日本でただ一つお札を発行できる「発券銀行」、民間の銀行にお金を貸す「銀行の銀行」、集めた税金など、国のお金の出し入れをする「政府の銀行」。銀行同士がお金を貸し借りする時の金利を調節する金融政策も担い、世に出回るお金の量をコントロールしている。
円安と株高 衆院選で自民党が大勝した直後の去年12月19日、日経平均株価は約8カ月半ぶりに1万円台を回復。その後も上昇傾向にある。
また1月11日には1ドル=89円台と、約2年半ぶりの円安ドル高水準をつけた。円安は自動車産業など輸出産業にとって追い風となる。
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朝日新聞経済部 大鹿靖明
1965年生まれ。アエラ編集部を経て現職。著書に『ヒルズ黙示録検証・ライブドア』『ヒルズ黙示録・最終章』『墜ちた翼ドキュメントJAL倒産』『メルトダウンドキュメント福島第一原発事故』。
2013年1月20日 |