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PM2.5 どんな注意が必要?

 

 


改善に協力できれば両国のために


 中国で深刻化している大気汚染の影響が日本にも広まっています。問題のPM2.5という微粒子は、工場の排煙や自動車の排ガスに含まれ、吸い込むと体に悪い影響があります。環境省は注意が必要な指針を決め、3月5日には熊本県が初めて注意を呼びかけました。

 

PM2.5の注意を呼びかける情報が流 れた熊本県荒尾市の上空。かすんで視 界が悪くなった=3月5日午前、朝日 新聞社ヘリから©朝日新聞

 

 

 

 

 PM2.5って何なの?
 空気中を漂っている大きさが2.5マイクロメートル以下、髪の毛の太さの30分の1以下の大きさという小さな粒がPM2.5だ。PMは英語のParticulate Matter(粒子状物質)の略だ。
 工場や暖房の排煙、排ガスなどに含まれるすすが主なものだ。燃料を燃やした時に出るいろんな化学物質が小さな粒になることもある。人間が排出するもの以外にも、火山の噴煙や黄砂のように自然界の小さな粒もある。いろんな物質が空気中で合わさってできるものもある。


 どこから来たの? 今年は多いの?
 空気は国境を越えて行き来しているから、よその国に公害が広がる「越境汚染」は珍しくない。かつて、欧州では周辺国からの汚染物質が雨と混ざって酸性雨が降り森林が枯れた。大陸から黄砂が来るように、汚染物質も偏西風に乗って西からやってくる。
PM2.5は、冬から春にかけて濃度が高まる傾向がある。西日本の広い地域で1月に環境基準を超える濃度が一時的に観測されたが、環境省は「昨年や一昨年と比較して、高い傾向にあるが、大きくは上回るものではない」としている。


 やはり中国から来ているの?
 国立環境研究所は、1月から2月初めに日本でPM2.5が高い濃度だったのは中国からの越境汚染の可能性が高いという研究結果を発表した。周辺に都市がない九州の西にある五島列島でも高い濃度のPMが観測されたこと、大陸に近い西日本の方が東日本よりも濃度が高い「西高東低」の分布であること、観測結果をもとにコンピューターで空気の流れを分析したら中国などの汚染の一部が日本にも来ている結果となったことが理由だ。汚染のどの程度が越境によるかはまだわからない。
ただ、越境の場合、広い範囲で汚染が広がることが考えられるため、関東や東海地方で観測されたように一部だけで高濃度なのは、地域的な原因とみている。


 体にはどんな悪さをするの?
 PM2.5はとても小さいので花粉症や風邪用のマスクでは防げず、肺の奥深くまで入りやすい。詳しくはわからないことが多いが、ぜんそくや肺がん、心臓の病気になる恐れが高まることなどが心配されている。中国のように非常に濃ければ問題は大きいけれど、むしろ日本ではたばこを吸う人がいる飲食店のほうがずっと高濃度だとする調査もある。ただ、健康な人には問題がない汚染の程度でも持病がある人には深刻に影響する恐れもある。やたらに怖がる必要はないけれど注意は必要だ。


 環境省が新しく作った指針ってどんなもの?  

 「1日平均で1立方メートルあたり70マイクログラム」を超えたら注意喚起するという指針だ。1マイクログラムは、百万分の1グラム。科学的な根拠が明確ではない取りあえずの指針だ。PM2.5は、2009年にできた「1日平均で35マイクログラム以下、しかも年平均で15マイクログラム以下」という環境基準があった。これは望ましい目標だから、超えるとすぐ病気になるというわけではない。
指針は、健康な人が72マイクログラムの場所に2時間いたら影響があった、というひとつの研究や米国での指摘などを参考に決めた。個人差があり、これより低くても注意が必要な人もいる。
大気汚染は、日本も高度経済成長期には多くの問題が起きて解決に取り組んできた。その経験を生かして、中国の汚染改善に協力できれば、お互いのためになる。



 注意の目安 環境省は、1日平均70マイクログラムを超える時は、急ぎでない外出を控える、長時間の激しい運動を減らす、などを行動の目安とした。小さな子どもや高齢者、呼吸器や心臓の病気がある人は、超えた時は体調に応じて慎重に行動し、超えなくても体調の変化に注意、としている。
 大気汚染の情報 環境省のホームページの「微小粒子状物質に関する情報」に基本的なことが掲載され、大気汚染の観測データは「そらまめ君」で見られる。九州大学の「SPRINTARS」には地域ごとの予測や動画を掲載。ホームページで予測情報を公表する自治体もある。

 

 

朝日新聞編集委員 黒沢大陸

1963年生まれ。91年から朝日新聞記者。 科学医療部デスクなどを経て編集委員。 社会部や科学部で、防災や科学技術行政、 環境、鉄道などを担当、国内外で数々の 災害現場を取材した。

 

2013年3月24日

 

 

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