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立川断層で判別ミス、なぜ起きた?

 

 


「思い込み」は危険だが情報公開は必要


 東京と埼玉にまたがり、首都直下の大地震を起こす恐れがある立川断層帯の調査で、東京大学地震研究所の教授が、地層に残っていた工事の跡を断層の痕跡だと見誤りました。調査の見学会には大勢が訪れており、波紋が広がりました。なぜこんなミスをしたのでしょうか。

 

 

 

 

 

 立川断層帯って危ないの。
 将来、マグニチュード7.4程度の地震を起こし、広い範囲が震度7の強い揺れに見舞われる恐れがある。東京都は、地震が起きると死者は最悪約2600人と想定している。都市部にあって影響が大きく、どんな断層か不明な点もあり、文部科学省が研究プロジェクトで調査している。
 どんな調査なの。
 地面を掘って地下の地層をむき出しにして調べる「トレンチ調査」をしていた。工場跡の空き地に長さ250メートル、幅30メートル、深さ10メートルという巨大な穴を掘って地層を見て、過去の地震で断層がずれた跡が残っているか、何年前の地震だったのかを調べようとしていた。
 活断層調査は、断層が起こした過去の地震で地表がずれてできた地形を探す方法、起震車という車で地面を揺らして小さな地震を起こして、地中で反射して戻る地震波を観測して調べる方法などもある。医者が目で体の表面の異常を調べ、打診で内臓を探るようなものだ。


 なぜ間違えたの。
 掘削した穴で観察した地層に粘土状の塊が縦に並んでおり、断層が動いたときの特徴と一致すると考えた。掘削場所は断層でできたと考えた緩い崖の真下だったことから、何かあるはずと考えて、地層を観察してしまった。
しかし、一般公開で見た土木関係の見学者が「人工物に見える」と指摘。掘り下げてみたら、断層だったら続いているはずの痕跡が下の方にはなかった。粘土状の塊はコンクリートだった。工場の基礎工事で使ったものと推察されている。調査チーム代表の佐藤比呂志教授は「思い込みで、見たいものを見てしまった」と反省している。断層調査に限らず、思い込みや先入観は失敗の元だから注意が必要だ。


 じゃあ、立川断層は存在しないってこと?
 それは違う。今回、掘削調査をした場所では見つからなかっただけで、地下を揺らして調べる調査などで地下に活断層があることは確認されている。


 活断層の調査って難しいの。
 地形や地層を見て、すぐにわかる断層もあるが、判別が難しいものもある。専門家は、いろんな方法で調査を進めながら議論を重ねて真実に近づけていくもので、今回の調査も科学的な問題はない、と指摘する。調査途中だったが、都市部にあり社会の関心が高い活断層だけに、事前の報道への説明や一般公開で未確定なことも説明したことで混乱を招いた。


 活断層は原子力発電所でも注目されているね。
 佐藤教授も、原子力規制委員会の調査団の一員として、青森県にある東通原発の活断層調査に加わっている。こちらは、複数の専門家が一致して活断層だと見解を示している。今回のミスは原発の調査に影響しておらず「断層調査は信頼できない」という声も広まっていない。


 大学の先生でも間違えるのだね。
 研究には失敗はつきものだ。仮説と検証を繰り返すのは通常の研究の過程で、純粋な学術調査だったら問題にならなかった。誤りがわかった後、隠さずに記者会見を開いて説明と謝罪をしたことは勇気がある、という専門家も少なくない。
むしろ、今回のことで、調査が確実だとわかるまで専門家が口を閉ざしたり、断言を避けたりする風潮が広がることを心配する声もある。警鐘をためらっているうちに災害が起きる恐れもあるし、専門家が口を濁せば社会に必要なメッセージが伝わらない。調査のあり方、情報の発表方法など、いろいろ考えさせられる出来事だった。

 

 

朝日新聞編集委員 黒沢大陸

1963年生まれ。91年から朝日新聞記者。科学医 療部デスクなどを経て編集委員。社会部や科学部で、防災や科学技術行政、環境、鉄道などを担当、 国内外で数々の災害現場を取材した。

 

2013年5月5日

 

 

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