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台湾の統一地方選挙で与党大敗

 

 

人気低迷 対中関係改善に焦る馬総統

 

 台湾の統一地方選挙が11月29日に行われ、馬英九総統率いる与党の国民党が歴史的な敗北を喫しました。2008年の就任以来、中国に対しては融和路線を続けてきた馬総統ですが、台湾の人々の対中接近への警戒感もあって、有権者の支持が最大野党の民進党に流れてしまった形です。

 

 

 

地方選が指導者選びに直結

 

 そもそも台湾の統一地方選って、どういう選挙なの?
 台湾には三つのレベルの選挙がある。指導者を選ぶ総統選。国会議員にあたる「立法委員」を選ぶ選挙。そして今回の統一地方選。台湾には22の市と県があって、そのトップを選ぶほか、地方議会の議員も選ぶ。どの選挙も4年に1度行われる。
 どうして地方の選挙なのに注目されるの。
 いい質問だね。日本の地方選は国政への影響はそれほどない。日本は間接選挙制度で、国会議員の選挙を通じて国会の多数を握った政党が首相を出すことになるからね。
でも台湾は総統が直接選挙なので、政党の得票率が重要になる。市長や県長の選挙での投票は総統での投票と同じ傾向になるので、統一地方選での結果が総統選に直結しているんだよ。
 なるほど。今回は、国民党がひどく負けたんだよね。
 歴史的な大敗と言っていい。22の市・県のトップのうち、もともと国民党は15ポストあったのに6ポストになってしまった。最大野党の民進党は逆に6から13に躍進したよ。
 最大都市の台北市でも国民党が負けたそうだね。
 台北市は国民党支持層の公務員や大企業が多いから、国民党が強い土地柄だけど、今回は無所属から出た候補に国民党の候補が25万票も差をつけられてしまった。台北市に並んでもう一つの勝負どころの台中市でも大差の敗北だった。
全体の得票率でみても、民進党は48%で、国民党は41%となった。台湾政治の常識からすると、過去にない事態であり、驚きとしかいいようがない結果になったね。

 

経済成長の実感 庶民になし

 

 どうして国民党はそんなに有権者に嫌われたんだろう。
 最大の理由は、馬総統の不人気だね。6年前の政権発足時は70%あった支持率が今は10%ぐらいに落ちてしまった。政策がふらついて決断力がないという印象が固まってしまい、あまり人間味の感じられない人柄に、庶民は嫌気がさしている。
それに、台湾の景気がずっとあまり良くないことも大きい。経済成長は続いているし、地価は上がっているんだけど、庶民は成長の実感が得られていないんだ。この点は「アベノミクス」の日本とも状況が似ているかもしれないね。
 でも中国とはどうなるんだろう。関係は悪くなるのかな。
 中国には手痛い結果になった。国民党政権は中国との関係を重視し、その国民党の馬政権を中国は一生懸命サポートしてきた。国民党こそが中国とうまくやっていける相手だとアピールしていたからね。
今年3月に学生たちが立法院を占拠した「ヒマワリ学生運動」と、この統一地方選はダブルショックじゃないかな。当面、中国と台湾との関係が急に悪くなることはないけど、停滞してしまうだろうね。
 台湾の人たちが「反中」だから国民党が負けたということではないの?
 それはちょっと違う。台湾の人たちも、中国との関係改善で馬政権がやってきたことをきちんと評価しているよ。
でも、馬総統はちょっと急ぎすぎたかもしれないね。というのも、つい最近北京で開かれたアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議に、馬総統は出席して習近平・中国国家主席と会談したいという意向を何度も表明したんだけど、中国に断られてしまった。任期中に歴史的な実績を上げたかったといわれている。対中関係で焦っている馬総統というイメージが広がってしまい、選挙にはマイナスになったようだね。
 これからの台湾政治はどうなるんだろう。
 2015年末ごろに立法委員の選挙があるし、16年初頭には総統選挙もある。民進党は勢いに乗るだろうね。
国民党は、馬総統が責任を取って党の主席を辞任したし、腹心の行政院長(首相)も辞めてしまった。国民党はしばらく混乱するだろうけど、次の総統候補を早く固めて体制を立て直さないと、8年ぶりに政権を民進党に明け渡すことも十分あり得るね。正念場だよ。




「AERA」編集部 野嶋剛

1968年生まれ。朝日新聞シンガポー ル支局長、台北支局長を歴任。現AE RA編集部。著書に『ふたつの故宮博物 院』『イラク戦争従軍記』『ラスト・バタ リオン??介石と日本軍人たち』など。

 

2014年12月7

 

 

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