朝日中高生新聞 日曜日発行 月ぎめ940円 タブロイド判(20〜24ページ・オールカラー) 朝日中高生新聞

NEWS WATCHER

 

キーワードで読む世界の10大ニュース

 

 

グローバル化のひずみと勢力変動のきしみ

 

 この1年、世界ではいろんなことが起きました。今回は私なりの「2014年の10大ニュース」を三つのキーワードで読み解いてみます。歴史の流れのなかで、世界が大きく変わる転換点を私たちは体験しているのではないか。そんな視点の読み解きです。

 

 

 

キーワード(1) イスラム、アフリカ

 

 まず、「イスラム国」という武装組織が、中東のイラクやシリアでぐんと勢力を広げたことに注目したい。イスラム教を厳しく守る国をつくろうとし、従わない住民たちを殺すなどした。女性にも厳しく教育も仕事をするのも認めない。
 イスラムの国々は石油が出る国を除けば貧しい国が多い。経済のグローバル化が進むなか、豊かな国と貧しい国の差はより広がった。だが、先進国はイスラムの問題ときちんと向き合ってこなかった。それがこうした組織がはびこる背景にある。「イスラム国が勢力を増す」は、根が深くまだまだ続く問題だね。
 「ナイジェリアのイスラム過激派が女子学生誘拐」は同じような組織が、やはり「女性に教育はいらない」と学校から連れ去ったものだ。驚くのは12月になってもまだ、女子学生たちが助け出されていないこと。私はここに「アフリカだから……」という欧米や日本の無関心を見る。「イスラム国」問題の背景にあるのと根っこは同じだ。
 だから「マララさんにノーベル平和賞」を第1位にした。イスラム教徒で、「銃より、ペンを」と女性への教育を求めるマララさん。7月にはナイジェリアに乗りこんで、女子学生たちの解放に努力しなさいと大統領をしかった。すごいじゃないか。
マララさんの祖国パキスタンでも12月、同じように学校が襲われ、子どもら計148人が殺された。マララさん頑張れ!
 「エボラ出血熱の脅威広がる」は、アフリカの片隅にひそんでいたウイルスが開発とグローバル化で世界に広がった例。

 

キーワード(2) 冷戦が終わって25年

 

 「冷戦」とは、第2次世界大戦が終わった後、米国を中心とする資本主義グループと、ソビエト社会主義共和国連邦(ソ連)率いる社会主義グループが、世界を二分して対立したことだ。武力は使わないが、冷たい関係だから「冷戦」。25年前に社会主義の経済がうまくいかなくなってソ連組が降参して終わった。ソ連もバラバラになった。
 そのソ連を受け継いだロシアは、負けて国が小さくなった悔しさも引き継いだ。「ロシアの『クリミア共和国』承認とウクライナ危機」はそうした問題。クリミア半島は同じソ連に属していたウクライナにちょっと貸しただけだったから返してほしい、ウクライナにもロシア人がたくさん移り住んでいて「そこはロシアだ」と、武力をふりかざして脅したわけだ。国境の変更を認めだしたら世界が混乱する。しかも武力で! そこで、米国や日本など先進国はこらしめに「ロシアを排除してサミット開く」ことにした。
 冷戦が終わって4分の1世紀が過ぎ、「冷戦後」が終わりかけている。その次に来るのは平和か、それとも……。二つのニュースはその危うさを示す。

 

キーワード (3) 第1次世界大戦開戦から100年

 

 開戦のきっかけとなった事件の追悼式が6月にベルギーであった。この大戦に注目するのはこれを機に「アメリカの時代」が始まったから。米国は戦争で豊かになり、経済、やがて政治でも世界のリーダーになった。それが100年後のいま、陰り始めている。「米中間選挙でオバマさんの民主党大敗」も、そんな陰りへの不満が一因だろう。

 米国に代わろうと世界に乗り出しているのが中国。100年に一度の変動のきしみが、「南シナ海で中国が勢力拡大」しベトナムなどと対立したり、領土で日本と対立したりにつながっている。「香港で民主選挙求め『雨傘革命』」と呼ばれる学生たちの抵抗が起きたのも、大国・中国との摩擦といえる。

  いま世界の金融や途上国の開発は、国連系の機関を通じ米欧日などの主導で行っている。「中国主導の国際金融機関設立で合意」は、こうした面でも中国が中心になるシステムを作ろうという試み。さあ、100年後に生き残るのはどちらだろう――。そんなことを考えながら新しい年を迎えるのは気が重いかな。




元朝日新聞編集委員 大妻女子大教授 五十嵐浩司

1952年生まれ。朝日新聞大阪社会部、 外報部を経てナイロビ支局長、ワシン トン特派員、ニューヨーク支局長を歴 任。大学や大学院でジャーナリズム論 や国際政治を教える。

 

2014年12月21

 

 

pageTOPへ