連れ去り認めたが、消息いまだ不明

　新潟市の中学１年生だった横田めぐみさん（当時13）が下校中に突然いなくなったのは１９７７年11月。北朝鮮に拉致されたとわかり、今年３月にご両親がモンゴルで、北朝鮮に住む孫やひ孫と会いました。北朝鮮による拉致問題とは何でしょう。なぜなかなか解決しないのでしょうか。

Ｑ　拉致って何？
Ａ　人を無理やり連れ去ることだよ。今から30〜40年ほど前、新潟や福井、鹿児島などの海岸近くにいた人や、外国旅行中の人が突然いなくなる事件が相次いだ。その後、警察の捜査や韓国などからの情報をもとに、北朝鮮に拉致されたのではないかとの見方が強まった。

Ｑ　北朝鮮は認めたの。
Ａ　最初は「でっち上げだ」と否定していた。でも２００２年９月、小泉純一郎首相（当時）と首脳会談をした北朝鮮の金正日総書記が、日本人13人を拉致したと認めて謝罪したんだ。蓮池薫さんら生存している拉致被害者５人とその家族は、04年までに日本に戻ったよ。

不十分な証拠で事実を隠す

Ｑ　それで拉致問題は解決したの。
Ａ　いいや。北朝鮮は８人が「死亡した」と主張したが、死亡の客観的な証拠が示されていないとして、日本は受け入れていない。日本政府が認定した拉致被害者は17人いるが、うち４人について北朝鮮は「北朝鮮に来ていない」と関係を否定している。

Ｑ　横田めぐみさんも北朝鮮に拉致されたの。
Ａ　そうだよ。新潟市の中学校でバドミントン部の練習を終えて帰宅中、海岸近くで北朝鮮工作員（スパイ）に襲われ船に乗せられたそうだ。工作員を偶然に目撃してしまい、口封じのため連れ去られたとも言われている。でも、めぐみさんが北朝鮮に拉致されたらしいと１９９７年に報道されるまでの20年間、家族や地域の人たちは、めぐみさんがなぜいなくなったのか、まったくわからなかった。

Ｑ　めぐみさんは拉致された後、どうなったの。
Ａ　「招待所」と呼ばれる施設に閉じ込められ、朝鮮語を勉強させられたそうだ。北朝鮮は、めぐみさんが病気で入院し、自殺したと説明。「めぐみさんの遺骨」とされるものも渡してきた。日本政府は持ち帰ってＤＮＡ鑑定をして、「遺骨は別人のもの」と断定。めぐみさんが死亡したとの北朝鮮の説明を認めていない。

Ｑ　めぐみさんの両親が３月にモンゴルで会ったのはだれ？
Ａ　めぐみさんの娘キム・ウンギョンさんとその家族。めぐみさんの両親にとっては孫やひ孫だね。北朝鮮によるとめぐみさんは、韓国から高校１年で拉致されたという金英男さんと北朝鮮で結婚。ウンギョンさんが生まれたそうだ。日本側もめぐみさんの両親とウンギョンさんをＤＮＡ鑑定し、ウンギョンさんはめぐみさんの娘と確認している。

Ｑ　そもそも、北朝鮮はなぜ日本人を拉致したの。
Ａ　朝鮮半島は第２次世界大戦後、韓国と北朝鮮に分断されている。北朝鮮は朝鮮半島を一つの国に統一するための非合法の活動を行う工作員を韓国に送り込もうとし、工作員が日本人になりすませば怪しまれなくて済むと考えた。日本人を拉致したのは、工作員に日本人らしい振る舞いを教える係をさせるため――という説がある。

「解決」の姿勢変える交渉を

Ｑ　これからどうなるの。
Ａ　日朝の交渉はなかなか進まず、「めぐみさんらは死亡しており、拉致問題は解決済みだ」という北朝鮮側の姿勢を変えさせるに至っていない。めぐみさんの両親が孫やひ孫と会ったのをきっかけに、滞っていた交渉が進み、生存する拉致被害者の帰国に結びつけばいいね。

朝日新聞編集委員　北野隆一

１９６７年生まれ。９０年から朝日新聞記 者。新潟県、宮崎県、福岡県、東京都、 熊本県で勤務。北朝鮮拉致問題やハン セン病、水俣病などを取材し、１１年秋 からは皇室を担当した。

2014年4月13日