制裁による「孤立」　何とかしたい北朝鮮

　北朝鮮による拉致問題で、なかなか進まなかった日朝の交渉が大きく動き出しました。日本と北朝鮮はスウェーデン・ストックホルムで交渉した結果、日本人拉致被害者や行方不明者について再調査することで合意。日本政府も、北朝鮮に対する制裁の解除を始める見通しです。

拉致被害者再調査で合意

Ｑ　最近、拉致問題で大きなニュースがあったね。
Ａ　５月末に日本が北朝鮮と交渉し、拉致被害者を再調査することで合意したんだ。
　拉致被害者をはじめとする日本人が北朝鮮にいるかどうかや、安否について、北朝鮮が約３週間後に特別調査委員会を作り、調査の状況を日本に伝えることになったよ。調査期間について日本政府は「１年を超えることはないだろう」との見通しを示している。

Ｑ　北朝鮮に拉致された日本人は何人いるの。
Ａ　難しい質問だね。北朝鮮に拉致されたと日本政府が認定した人は17人。５人は日本に帰国したが、残り12人について北朝鮮は「８人は死亡し、４人は入国していない」と主張している。家族が「北朝鮮に拉致されたのではないか」と市民団体「特定失踪者問題調査会」に届けたのは４７０人。警察が「拉致の可能性が排除できない」として調べている行方不明者は８６０人いる。このうち何人が実際に拉致されたのかはわからない。

Ｑ　「死亡した」と言われた人についても調べ直すの。
Ａ　そうなるだろう。拉致被害者が死亡したとする北朝鮮側の説明や証拠を、日本側は「ずさんな内容」として認めていないからね。
北朝鮮は２００２年、拉致被害者についての調査結果を日本政府調査団に説明した。これに対しては死亡時期や状況などについて矛盾点が多いことが、被害者家族らから指摘された。04年には横田めぐみさんや松木薫さんのものとして北朝鮮から遺骨が提供されたが、日本政府はＤＮＡ検査をして「別人のもの」と断定。死亡を認めていない。

Ｑ　再調査で「実は生きていました」となるかな。
Ａ　そうなるといいね。拉致被害者や行方不明者の家族は「今度こそ」と期待を寄せている。日本政府内には「複数の拉致被害者について、生きているという情報がある」と語る人もいるそうだ。

国交がなく情報が不十分

Ｑ　調べるのは拉致被害者だけなの。
Ａ　北朝鮮側は「全ての日本人に関する調査を全面的に実施する」と述べた。�@戦時中、日本の植民地だった朝鮮半島北部（いまの北朝鮮）にいて、戦後日本に帰れなくなった人�A在日朝鮮人と結婚し、１９５９年〜84年の「帰還事業」で、夫や妻と一緒に北朝鮮に渡った日本人――についても調べるそうだ。

Ｑ　その人たちはもう生きていないかもしれないね。
Ａ　亡くなった日本人の遺骨が見つかったら、引き渡しについても話し合う見通しだよ。

Ｑ　北朝鮮には日本人がどれくらいいるの。
Ａ　例えば、70年に日本国内で旅客機よど号をハイジャックして北朝鮮に亡命した日本人犯行グループの一部が６人ほど残っている。でもそれ以外ははっきりしない。日本との間に国交がないし、北朝鮮では人が自由に移動できない。情報が閉ざされた国だからね。

Ｑ　「拉致被害者は死亡した」と言ってきた北朝鮮が、なぜまた再調査に応じたのかな。
Ａ　国際的な制裁で孤立している現状を何とかしたいと思ったからではないかと言われているよ。今回、北朝鮮が再調査を始めたら、日本は制裁の一部を解除すると約束したからね。

Ｑ　北朝鮮はどんな制裁を受けているの。
Ａ　国連安保理事会は昨年、北朝鮮が核兵器の開発やミサイル発射実験を繰り返していることが「地域の平和と安定を脅かす」として、核開発につながる国際的なお金のやりとりを制限するなどの制裁を決議した。日本はこれに加え、拉致問題も理由に、北朝鮮船の日本国内への入港や北朝鮮当局者の日本入国を禁止するなど独自の制裁もしている。新潟港と北朝鮮との間を行き来していた「万景峰号」は朝鮮学校生徒の北朝鮮への修学旅行などに使われていたから、入港禁止は在日朝鮮人に影響していたんだ。

朝日新聞編集委員 北野隆一

１９６７年生まれ。９０年から朝日新聞記 者。新潟県、宮崎県、福岡県、東京都、 熊本県で勤務。北朝鮮拉致問題やハン セン病、水俣病などを取材し、１１年秋 からは皇室を担当した。

2014年6月8日