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2015年8月4日付
安倍晋三首相は、太平洋戦争が終わって70年にあたる今月15日までに「戦後70年談話(安倍談話)」を発表します。首相談話とはどんなもので、まわりの国々にどんな影響を与えるのでしょう。神戸大学大学院教授の木村幹さん(政治学)に聞きました。(中塚慧)
Q(質問) 戦後の節目に出される首相談話とは、何ですか。
A(木村さんの答え) 日本は第2次世界大戦前から戦争が終わるまで、朝鮮半島を植民地にしたり、中国に攻め入って占領したりしました。過去の戦争の認識や未来の平和について周辺各国にメッセージを送るために、戦後50年の1995年8月15日、当時の村山富市首相が発表した「村山談話」が最初です。
Q 「村山談話」はどんな内容ですか。
A 戦争を「過去のあやまち」として、まわりの国々にあやまる内容です。「植民地支配」「侵略」「反省」「おわび」の四つのキーワードを使い、おもにアジア諸国との和解をめざしたといえます。また、唯一の被爆国として、核兵器をなくすなどさらに平和をめざす決意も示しました。
政府全体の合意となる「閣議決定」もなされた公的な談話です。
Q 戦後60年の2005年8月15日には、当時の小泉純一郎首相が「小泉談話」を発表し、閣議決定しましたね。
A 四つのキーワードとともに、基本的には村山談話を引きついだ内容です。それに加え、「我が国の戦後の歴史は、まさに戦争への反省を行動で示した」と、戦後の歩みや世界平和への貢献もうったえています。アジア諸国とは「未来志向の協力関係」をつくっていきたい、としました。
Q 首相談話は世界の国々にどんな影響を与えましたか。
A 長期的にみて、「日本は過去の戦争を反省し、謝罪している」という印象が各国に伝わりました。おもにアジア諸国との関係悪化を防ぐ役割を担ったといえます。
痛切な反省の意を表し、心からのおわびの気持ちを表明いたします(「村山談話」から)
「村山談話」を発表する村山富市首相(当時)=1995年8月15日、首相官邸(C)朝日新聞社
未来志向の協力関係を構築していきたいと考えています(「小泉談話」から)
「小泉談話」の閣議決定にのぞむ小泉純一郎首相(当時)=2005年8月15日、首相官邸(C)朝日新聞社
Q 村山談話は過去の戦争についてのおわび、小泉談話ではそれに加え「未来志向」のメッセージが強まりました。では、安倍談話は?
A 未来志向の部分がさらに増えると考えられます。仲間の国が攻撃されたときにともに戦う集団的自衛権をもりこんだ安全保障関連法案が、国会で話し合われています。今後の国際平和への貢献について強くうったえるかもしれません。
首相は4月、アジア・アフリカ会議(バンドン会議)とアメリカ議会で演説しました。その内容には「先の大戦の深い反省」という言葉はありましたが、「おわび」は入りませんでした。過去の世代の問題と今の問題を分けようとするのが、首相の基本的な姿勢です。
首相は、談話を閣議決定しない方針を示しました。閣僚(大臣)全員の同意を得なくてもいいため、自らの考えをストレートに出しやすいといえます。とはいえ、各国は「日本政府の意見」だととらえるでしょう。
Q 各国は談話をどう受けとめますか。
A 四つのキーワードが入るかどうかがポイントです。韓国は「植民地支配」、中国は「侵略」、日中・日韓関係が悪くなるのを心配するアメリカは「反省」といった言葉に目を配るでしょう。
首相が過去をどう整理し、未来を語るか。その内容しだいで、周辺各国との関係にも影響を与えると考えられます。
木村幹さん
イラスト・ふじわらのりこ
記事の一部は朝日新聞社の提供です。