成果主義が原因? あいつぐ論文不正
朝日新聞科学医療部 合田禄記者
ジャン 「STAP細胞」って本当はなかったの。
合田記者 どんな細胞にもなれる新型の万能細胞だとして理化学研究所(理研)などの研究者が去年1月に論文を発表したけど、理研が実際につくれるかどうかを実験して調べたら、結局確認できなかった。論文にもいろいろな不正が見つかり、研究結果はなかったことになったよ。
ケン すごい研究だと思っていたのに残念。
――理研が専門家を集めて研究室に残っていた細胞などを調べたら、「STAP細胞」から作ったとされた細胞のすべてが、すでに知られている「ES細胞」という別の万能細胞が混入したものだった。だれに聞いても「自分は入れていない」と言っていて、どうして入ったかは結局突き止められなかった。
ジャン どうしてみんな「STAP細胞」があると思ってしまったの。
――論文には、細胞の写真のほかに、実験結果の画像やグラフがたくさん載っていて、どんな細胞にも変化できることがきちんと確かめられたと思ったんだ。
ポン ふーん。
――でも、後で数多くの疑問点が指摘された。理研が約20項目を調べると、そのうちの4項目は、主に研究をした小保方晴子さんが違う画像を組み合わせたり、きちんと実験せずにグラフをつくったりしていた。実際にはないものをあるとする「捏造」や、データを都合よく書き換える「改ざん」という不正にあたると認定されたんだよ。
ケン どうしてそんなことをしたんだろう。
――小保方さんは「悪意のない間違いだった」と言っている。
ポン 悪いのは小保方さんだけ?
――不正を調べた結果をまとめた理研の報告書では、一緒に研究した有名な研究者たちにも責任がある、としているよ。論文の発表前に不正を見つけられなかったり、まだ若い小保方さんをしっかりと指導できていなかったりしたわけだからね。
有名雑誌掲載が成績表代わり
ジャン どうして防げなかったんだろう。
――研究者たちが有名な科学雑誌に論文を載せようと思って夢中になるあまり、一番大切な研究の中身への注意がおろそかになったのではないか、という見方がある。最近は有名雑誌にどれだけ論文が載ったかが、研究者の成績をはかるものさしに使われるようになってきているんだ。
成績がよければ、研究に使えるお金が増えたり、いい役職につけたりする。これからも同じような問題が起きるかもしれない。
ケン 研究者の不正って他にもあるの?
――いくつもある。東京大学では去年に元教授らの33本の論文を不正認定した。海外でも問題になっている。アメリカの一流の研究所でも10年ほど前に若手研究者が出した論文計63本が取り下げられる事件があったよ。
ジャン 不正をなくすことはできないの。
――ゼロにするのは難しそうだ。大学や研究所では、不正をしてはだめだということを研究者にしっかりと教える倫理教育に力を入れる動きもあるけど、防ぎきれるかわからない。アメリカでは研究者の不正を監視する公的な組織があるけど、それでもなくならない。
ポン 不正をする大人にはなりたくないな。
――一番大切にしないといけないのは、研究者一人ひとりが自然の謎を解き明かすという科学の原点に立ち戻って研究に挑み続けることだと思うよ。
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