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2016年6月28日付
自然災害などが起こったとき、いち早く現地にかけつけ、手助けするのが災害派遣医療チーム(DMAT)です。4月に発生した熊本地震では、東日本大震災を上まわる2千人以上が活動しました。(今井尚)
熊本地震発生後、県庁の中につくられた対策本部に、DMATをはじめ、警察や消防、県職員、自衛隊などが集まり、最新の情報を共有しました。
集まった情報によると、熊本県内の拠点となる病院には、続々と患者さんが集まっていました。こうした病院では医師や看護師らが足りないため、DMAT隊員をたくさん送りこみます。
今回の地震では、建物がくずれるおそれがあるなど、10の病院で患者さんを全員避難させる必要がありました。電気や水道が止まった病院もあり、一刻も早い対応が求められました。
すぐに自衛隊などと相談し、いつ、どのくらいの車やヘリコプターを用意できるかなどを確かめます。どの患者さんが最も緊急かも判断しながら、1500人以上を運び出す作戦が進められました。
主に本部で活動した医師の河嶌讓さんは「これだけの数の患者さんを搬送したのは初めてでした。それにもかかわらず、全員を無事に避難させられたことはよかった」といいます。
2011年の東日本大震災では、数日間にわたって支援の手が届かず、津波の後に病院で患者さんが亡くなる例もありました。「今回は、すべての病院を見落とすことなく確認しました。東日本大震災の教訓を生かせたと思う」と話します。
【DMAT】英語の「Disaster(災害)Medical(医療)Assistance(援助)Team」の頭文字です。専門的な訓練を受けた医師、看護師、業務調整員で構成されます。現在、全国に1万人以上が隊員として登録されています。
ひとたび大きな自然災害などが発生すると、病院には人があふれ、いつも通りの治療ができなくなります。1995年に起きた阪神・淡路大震災では、地震直後に救急医療が整っていたら500人を救えたとされます。
この反省を生かして、災害が起きた時に48時間以内にかけつける医療チームが2005年にできました。これがDMATです。主に医師1人と看護師2人、それに業務調整員1人の4人が一つの班になって活動します。
DMAT隊員はふだん、各地の病院などでそれぞれの仕事をしています。災害が起こると、起きた都道府県や国が基準にしたがって各地のDMATに呼びかけます。DMATは10日間ほどで活動をほぼ終えて、その後は現地の医療機関やスタッフにバトンタッチします。
一方、心のケアをする精神科医らでつくる専門のDPAT(災害派遣精神医療チーム)はいまも現地で活動しています。DPATはDMATを参考につくられました。
「災害現場では、医師である前に、一人の人間として、被災された方々の求めることを何でもやるという姿勢が大切。災害医療の経験は、それぞれ関係する機関の連携を強め、ふだんの救急医療の体制もより良いものにできる」と河嶌さんは話します。
こわれる可能性のある病院から患者を運び出すDMAT隊員=4月15日、熊本県御船町
(C)朝日新聞社
治療する患者の優先順位を決める札を持つ河嶌さん。札の下にある四つの色で示します=東京都立川市、災害医療センター
記事の一部は朝日新聞社の提供です。