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マセソン美季さんコラム「自分を信じて」
マセソン美季 東京都出身、カナダ在住。1998年のパラリンピック長野冬季大会のメダリスト。日本財団パラリンピックサポートセンター勤務。
第96回 広がる読書の楽しみ方
(朝日小学生新聞2020年10月21日)
読書は、紙のページを読み進めるだけではなく、多様な仕方を選択できるようになりました。
電子書籍は、スマートフォンやパソコンなど電子機器のディスプレーで読める本なので、スペースの節約や、大量の本を一度に持ち歩くことができて便利です。
近所の小学校では読書の時間に、電子書籍を取り入れたことで、読書好きの子どもが増えたとニュースになっていました。知らない単語の発音や意味をその場で確認でき、自分の好みや読書レベルに合った、おすすめの本が次々にあらわれます。手にした本がおもしろくないとか、難しすぎて読むのがいやになるという経験が減り、読書が好きになったのでは、と言われています。
また、オーディオブック(聴く本)のおかげで、字を読むことに苦手意識があった子も、本の内容を音声で理解できるようになり、図書クラブに加入するほど本好きになったそうです。
私は紙の本を読むのが好きですが、出張中は電子書籍、最近は音楽の代わりに本を聴きながらエクササイズをするなど、その時の状況に合わせて読書のスタイルを変えています。
紙の本はどうしてもかさばってしまいます。処分するのも迷うことがあったのですが、いらなくなった本の寄付が社会を変える力になると知り、日本ブラインドサッカー協会の「古本パワープロジェクト」に寄付しています。本だなを整理して、読まなくなった本の活用法を考えてみるのもいいかもしれません。
第95回 バーチャルスクールでも学べる
(朝日小学生新聞2020年10月7日)
カナダの学校は9月から新学年が始まりました。今年は新型コロナウイルスの影響で、新しい生活様式にそって、授業のスタイルも大きく変化しています。
私が住んでいる地域では、通学して教室で授業を受けるこれまでの学習形式以外に、バーチャルスクールに登録し、オンラインで学習するという選択肢が登場しました。それぞれの家庭の事情にあわせ、どちらか一つの学習形式を選ぶことができ、1年間その方法で授業を受けます。
オンライン学習を選ぶ場合は、必要に応じて、パソコンや通信環境などを、教育委員会が用意してくれる仕組みもあります。
およそ3割の子どもたちが、「オンライン学習」を選びました。子どもたちは同じ時間にバーチャル教室に接続して、授業を受けています。先生やクラスメートと意見交換をしたり、オンライン上のホワイトボードにコメントを記入して意見を共有したり、自分の作品を画面共有しながら紹介したり、活気があります。
オンラインの授業で、パラリンピックの競技の「ボッチャ」を紹介した先生に話を聞く機会がありました。スポーツの要素を取り入れたいと考えていた時に、東京大会をめざす選手たちがインターネットを活用して、自宅から合宿に参加しているという話題にヒントを得たといいます。
子どもたちにパラリンピック競技で使われる用具を調べてもらう学習などを始めたそうです。
第94回 マラソンで支援呼びかけた英雄
(朝日小学生新聞2020年9月16日)
カナダの英雄、テリー・フォックスさんを紹介します。テリーさんは、1958年、カナダに4人きょうだいの次男として生まれました。スポーツが大好きで、バスケットボールの選手として活躍し、将来は体育の教師をめざしていたそうです。ところが、18歳の時、骨肉腫という骨のがんで、右足太ももから下を失いました。
入院中、自分と同じ病気で苦しむ幼い子どもたちが、命を失う姿も見て、自分にできることはないかと考えました。そして、がんの研究資金を集めるため、義足でカナダを横断するマラソンに挑戦することにしました。走行予定は、およそ8千キロメートル。毎日フルマラソンほどの距離を走り、100万カナダドルの寄付を集めることを目標に出発しました。
「希望のマラソン」と名づけられたこの活動は、当初は注目されませんでした。時には危ないからと国道を走ることを禁止され、回り道をさせられました。それでも走り続け、少しずつ支援者を増やしていったそうです。しかし、143日目、5372キロメートルを走ったところで、がんが肺に転移していることがわかりました。治療に専念しましたが、残念なことに1981年、22歳の若さで亡くなりました。
「ぼくの魂は生き、夢に挑戦し続ける」という彼の言葉が受けつがれ、今も、毎年マラソン大会が開かれています。これまでに8億カナダドル(およそ640億円)の募金が寄せられ、がんの研究資金として寄付されているそうです。
第93回 カナダのパラ選手に日本から贈り物
(朝日小学生新聞2020年9月2日)
新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受け、スポーツ施設などが閉鎖されていましたが、カナダでは、徐々に施設での練習ができるようになってきました。
カナダの車いすラグビーチームは、開催が延期された東京パラリンピック競技大会への出場を決めています。まだ代表選手が同じ場所に集まって合宿をすることはできませんが、車で移動できる距離にいる仲間たちが、久しぶりに集まって練習をしているところに、すてきなサプライズがありました。感染症対策に役立ててほしいと、青森県三沢市や周辺地域の小学生、障がいのある人たちが手作りしたマスクおよそ350枚が、カナダ車いすラグビー連盟に贈られたのです。
三沢市は、このチームの事前合宿地となっていて、選手たちは2018年10月から去年までの間に3回現地を訪れ、地元の人たちとの交流を深めてきました。
選手たちは、「とてもうれしい。海外で応援してくれるみんなの思いがパワーになる」と感謝の気持ちを伝えました。製作に関わった小学生の中には、選手たちと再会できますようにという願いをこめて、刺繍をした子もいるそうです。直接会えなくても、心をこめた手作りの品が国境を越え、思いを運んだ例です。
第92回 栄養を考えた食事が大事
(朝日小学生新聞2020年8月19日)
アスリートに食事の指導をする管理栄養士さんと話す機会がありました。彼はアスリートたちに、「何を食べるか、どのタイミングで、どのくらいの量を体に取りこむか、そこからすでに勝負が始まっている」と、食事の重要性を説明します。
わが家の家庭菜園のことや食生活を伝えると、高く評価されました。彼が注目している野菜が複数ふくまれているからです。オクラやモロヘイヤといったネバネバした食材は、胃腸を保護したり、たんぱく質の分解をうながしたりするほか、整腸作用もあるので、アスリートたちにもおすすめの食材です。しかし、私が住んでいるカナダの地域ではなかなか手に入らないので、毎年、種から育てています。
ダイコンは店頭で見かけることがありますが、葉っぱがついた状態で販売されることはほとんどありません。ビタミンやミネラルがふくまれているので、すぐに食べられないものは、冷凍したり、乾燥させてふりかけを作ったりしていると言ったら、感激していました。
ウイルスが体内に入らないようにと、マスクや消毒に気を配る人は増えてきたけれど、毎日自分が食べているものは気にかけない人が多いと言います。彼が指導し、競技で好成績をおさめたアスリートたちの共通点は、「よく食べ、よく寝て、よく動き、よく笑う」だそうです。
第91回 感動した五輪の思い出
(朝日小学生新聞2020年8月5日)
私の記憶に鮮明なオリンピック(五輪)は、1984年のアメリカ・ロサンゼルス大会です。開会式の入場行進では、世界には知らない国がたくさんあることにおどろき、めずらしい国旗に目をうばわれました。当時私は小学5年生で、大好きな水泳をがんばっていたので、平泳ぎの長崎宏子選手を応援していました。
ふだんはテレビを見る時間が決まっていたのに、大会の間は特別ルールで、夜おそくの中継放送にもくぎづけでした。陸上で、金メダル4個を獲得したアメリカのカール・ルイス選手は、スーパースターでした。それまで手をグーににぎって走っていましたが、体育の時間に彼の走り方をまねして、パーに開いて走るのがはやったのを覚えています。
柔道では、足に大けがをしたにもかかわらず金メダルを獲得した山下泰裕選手の試合を見て心を動かされ、スポーツ観戦で初めて涙を流しました。馬術やセーリングは、その時知った競技でした。
来年の夏、東京大会が開催される予定ですが、五輪の33競技、パラリンピックの22競技、みなさんはご存じですか? 競技の知識や体験した経験があると、より観戦が楽しくなります。
今年は、多くの地域で夏休みが短縮されているようですが、自由研究や調べ学習のテーマに、来年の大会と関連した内容を考えてみてください。興味があるスポーツ、大会のマスコット、選手たちのトレーニング、大会をささえるボランティア活動、参加する国と地域の文化や歴史、様々なトピックが考えられますよ。
第90回 デジタルにたよらない生活
(朝日小学生新聞2020年7月15日)
デジタル・デトックスという言葉を聞いたことがありますか? デジタル機器、つまりスマートフォンやパソコン、ゲーム機などを一定期間使わないようにして、体が本来持つ力を取りもどす試みです。
調べ物がある時にはスマホやパソコンを使い、何か覚えておくためには写真で記録、時間つぶしにはゲーム機――。様々な場面でデジタル機器にたよって生活をしている人も多いと思います。使い過ぎると、記憶力や意欲が低下するだけでなく、感情すら動きにくくなり、何をやってもつまらないとしか感じられなくなることもあるそうです。
パラリンピックをめざすカナダの選手たちの合宿のエピソードを思い出しました。午前と午後の練習の間の休憩時間は、デジタル機器の使用が禁止されていました。スマホで息ぬきをしているつもりでも、実は脳にとってそれは息ぬきではなく、過労になってしまうのだそうです。
オンラインでの仕事も増えたので、デジタル機器を使わない時間を意識的に増やしています。落ち着いて生活できたり、記憶力が向上したりしているので、みなさんにもおすすめです。
第89回 時差を気にしてオンライン
(朝日小学生新聞2020年7月1日)
新型コロナウイルスの影響で、海外出張をしない生活が数か月続いています。当面は、会議、授業、シンポジウム、セミナーなどには、コンピューターのスクリーンごしに、遠隔で参加することになりそうです。オンラインの世界には、国境がありませんし、荷造りや長時間の移動から解放されるので、体は楽になるだろうと思っていました。ところが、実はそう簡単ではありません。
例えば、私が暮らしているカナダは、日本の約27倍の面積で、広い国土には六つのタイムゾーン(同じ標準時を使う地域)があります。同じ州内でも時差がある地域もあります。国が変われば、さらに複雑になり、打ち合わせの時間を設定するときはいつも慎重になります。
特に春と秋は注意しなければなりません。夏時間をとり入れている国なのかどうかを確認し、その地域の夏時間への切りかえ時期を確認しなければならないからです。
仕事相手は世界各地にいますし、同じ日にちがうタイムゾーンの会議に参加しなければならないこともあります。自宅から仕事をしているのに、体内時計のリズムがくずれ、疲れやすくなりました。
画面ごしのコミュニケーションは、相手の反応が読み取りにくいので、本当に伝わっているのか心配になることもあります。できるだけ文章は簡潔に、そして、質問を投げかける回数を増やすように工夫をしています。マスクをつけている相手と会話をするときにも、同じように気を配ると良いかもしれません。
第88回 毎日の記録が元気のもと
(朝日小学生新聞2020年6月17日)
学校が再開しても、引き続き新型コロナウイルスの感染防止に細心の注意をはらう必要があります。分散登校やマスクの着用、人との距離を気にするなど、これまでとはちがう「新しい生活様式」で、ストレスを感じている人はいませんか? 今までの「当たり前」が通用しなくなり、新しい価値観を受け入れなければならない時、多くの人が不満やとまどいを感じてしまうものです。変化に対する感じ方や考え方は人それぞれですが、マイナスなことばかりで頭がいっぱいになってしまうと、心にも体にも、いい影響はありません。
今回は、私が長く続けている「ポジティブノート」のご紹介です。
簡単に説明すると、毎日必ず「できたこと」「わかったこと」「ワクワクしたこと」を記録するだけのシンプルなノートです。三つの中から一つだけでもいいので、必ず何かを書くようにしています。
大人になっても、毎日の生活の中に発見があります。最近のページを見てみると、仕事や人間関係に関することもあれば、「肉まんを作る時、イーストの代わりにベーキングパウダーを使うと、蒸した時に皮が茶色っぽくなってしまうとわかった」「夜にホタルを見つけてワクワクした」などと書いていました。
特別なことをたまにするよりも、シンプルなことを毎日続ける力が、いろいろな場面で役立ちます。そして、この小さなできごとの積み重ねの記録をふり返ると、元気や自信がわいてくるので、おすすめです。
第87回 幸せや優しさを意識して生活
(朝日小学生新聞2020年6月3日)
「コロナ差別」という言葉を聞いてショックを受けました。ヨーロッパやアメリカでは、特にアジア系の人種に対して、暴言をはいたり、暴力をふるったりする行為が報道されています。日本では、感染者やその家族、医療現場でウイルスとたたかっている人たちが、不当な差別やいじめの対象になっているという話や、花粉症でせきをしたら「コロナ!」と言われたという話を聞きました。
このウイルスはだれでも感染する可能性があります。おそれなければいけないのは、人ではなくウイルスです。感染症の大流行が、世界のあちこちで深刻な人権問題に発展しているのが、とても残念です。
今まで当たり前にできていたことが制限されたり、不便な生活を強いられたり、不安や不満、ストレスがたまったりしている人も多いでしょう。でもだからといって、だれかの心に傷をきざんでしまうような行動はやめなければいけません。
世の中には、さまざまな気持ちで生活している人たちが共に暮らしています。1人でも多くの人が、明るい気持ちになれるように、どんなことができるでしょう。
生活の中に幸せを探し、心をこめて「ありがとう」を伝えたり、笑顔になれることや、だれかの心がほっこりするような優しさをプレゼントしたりする人が増えれば、居心地の良い空間も増えていきます。先行きが見えない時代だからこそ、そんなことを意識しながら生活することを心がけていきましょう。
第86回 オンラインでカエルの合唱
(朝日小学生新聞2020年5月20日)
カナダでも暖かい日が増え、窓を開けて過ごす時間が長くなりました。私が住んでいる地域では、まだ外出できない生活が続いています。窓から自然の変化を毎日楽しんでいます。鳥のえさ台に集まってくる野鳥の数も種類も増えました。最近は、カエルの声もよく聞こえます。
息子のクラスでは、生物と地球環境について勉強しています。オンラインで授業を受けている時に「今日はうちの周りで、カエルが大きな声で鳴いてるよ、ほら」と言って、窓を開けてカエルの鳴き声を聞かせてくれた男の子がいました。すると、「うちも!」と言って、パソコンのスピーカーからは、突然カエルの大合唱が聞こえてきました。「カエルが鳴くなら明日は雨だって、となりでおじいちゃんが言ってる」と家族の飛び入り参加もあり、教室の授業では経験できない一コマでした。
「カエルが鳴くと、雨が降る」はどうやら本当のようで、翌日、雨が降りました。雨が降っている時には、鳴き声が聞こえないことにも気がつきました。
「観天望気」という言葉を聞いたことがありますか。雲や風、空の色など自然現象や、動植物の様子から天気を予想することです。月の周りに光の輪が見えたり、ツバメが低空飛行したりしている時も雨の前兆といいます。
環境の変化に敏感なカエルは、環境が悪くなっているかを知る指標にもなっています。カエルの声は、自然が豊かな証拠です。みなさんの家の周りでは、カエルの鳴き声は聞こえますか?
第85回 野菜作りにこだわる
(朝日小学生新聞5月6日)
この時期、わが家では家庭菜園の準備に大いそがしです。カナダで暮らすようになってからずっと、地元のスーパーでは、あまり見かけない野菜を中心に育てています。ダイコン、ゴボウ、オクラ、エダマメ、チンゲンサイ、シソ、ネギなどです。
植物を育てるときには、住んでいる地域に合った種類や品種の種を選ぶところから始めます。農薬を使わず育てることにこだわっています。
私が住んでいる地域は、北海道の札幌よりも緯度が高く、寒さがきびしい地域です。5月半ばまで霜が降りることもあります。新芽は霜で台無しになってしまうので、家の中で育てた苗を、霜の季節が過ぎてから畑に移します。
カナダでは、4月に雨が降ると、あいさつの代わりに「April showers」が使われることがあります。ザーッと降るにわか雨のような降り方なので、「シャワー」という単語で、雨を表現しています。
今年の4月は、雨ではなく、雪がよく降ったので、植物にどんな影響があるのだろうかと少し心配しています。
第84回 五感を刺激、ストレス発散
(朝日小学生新聞2020年4月15日)
新しい学年になり、今までとちがった生活にはなれましたか。特に今年は、新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐために、学校が休校になったり、スポーツクラブや塾なども閉鎖されたり、いつもとちがう生活を送っている人も多いと思います。なれない生活や、不安な気持ちがある時は、大人にも、子どもにも、みんなにストレスがたまります。
私が住んでいるカナダのオンタリオ州は、病院や薬局、スーパーやガソリンスタンドなどしかあいていません。学校も休校しています。友だちに会うこともできません。
外出禁止の生活が長引く中で、役に立っているストレス退治法をご紹介したいと思います。それは、楽しみながら五感を刺激する遊びです。子どもたちに人気なのは、①紙袋に野菜やくだものなどを入れ、目をつぶってにおいだけで中に入っているものをあてる②靴下をぬいで、はだしになって、足ジャンケンをする。もし、箱二つとビー玉など、小さなものを10個ぐらい準備できれば、それを足で左の箱から右の箱に1個ずつ移動させる③ドライフルーツミックスや、ナッツ、小さなチョコレートを使い、目かくしをした味あてゲーム、などです。ぜひ、みなさんも試してみてください。
ストレスを感じたら、がまんは禁物です。自分の中にためず、できるだけ早く外に出しましょう。話せる人がいれば、言葉で外に出し、そうでない時は思ったこと、感じたことを紙に文字で書き出しましょう。
第83回 ちがいがあるからすばらしい
(朝日小学生新聞2020年4月1日)
こんにちは。今回からコラムを読んでくださる方に、簡単に自己紹介をさせていただきます。
私は今、カナダで暮らしています。日本で体育の教員をめざしていた大学生の時に交通事故に巻きこまれ、脊髄を損傷したため、足が動かなくなりました。それ以来、車いすを使って生活しています。長野で1998年に冬のパラリンピックが行われた時は、日本代表の選手として、アイススレッジスピードレースという競技で、メダルを獲得しました。
アメリカに留学し、その後結婚してからは、ずっとカナダに住んでいます。現在は東京大会に向け、学校教育を通してみなさんにパラリンピックの魅力を伝えたり、パラリンピックがめざす「共生社会」を実現するための考え方を広めたりしています。
車いすで生活するようになってから、社会の見え方が変わりました。海外で生活するようになってから、新しい価値観や考え方に接する機会も増えました。様々な経験を通し私が感じてきたことを、少しずつご紹介していきます。
新しい生活が始まり、期待している人もいるでしょう。反対に、新しい環境の中で、自分が人とちがうことに不安になったり、自信を失いそうになったりしている人もいるかもしれません。このコラムでは「ちがいがあるからすばらしい。自信を持ってかがやこう」、みなさんにそんなメッセージを届けたいと思っています。
第82回 聖火にもたくさんの物語が
(朝日小学生新聞2020年3月19日)
ギリシャのオリンピアで12日、東京オリンピックの聖火の採火式が行われました。今回は特別な気持ちで採火式を見守っていました。実は私も、オリンピックの聖火ランナーに選ばれたからです。思い出がある東京の街で、貴重な経験ができることを、今からとても楽しみにしています。
聖火リレーは第2次世界大戦後は、平和のともしびとして実施されるようになりました。国際オリンピック委員会の決まりで、オリンピックの聖火は、一つの聖火を一筆書きでつなぐのが原則です。
国内では福島を出発し、約4か月かけて東京の国立競技場に向かう予定です。47都道府県をまわるので、みなさんが住んでいる地域に、いつ聖火がやってくるのか、どんなルートを走るのか調べてみてください。知っている道を通るかもしれませんね。
パラリンピックの聖火リレーは、パラリンピックの原点となる大会が行われた、イギリス・ロンドンの郊外にあるストーク・マンデビルを通過するという決まりがあります。1988年に初めて実施されました。東京パラリンピックの聖火リレーは、国内700か所以上でも採火し、東京で「集火」します。
パラリンピックゆかりの地に炎が訪問する「聖火ビジット」もあるようです。採火の場所や方法、立ち寄る先には、それぞれの物語があります。聖火にまつわるストーリーから、大会に関連する出来事などを学ぶのもおもしろそうです。取り組んでみてください。
第81回 ピンチをチャンスに変えて
(朝日小学生新聞2020年3月5日)
世の中には、自分の力でコントロールできることと、できないことがあります。物事が自分の思うような結果にならず、イライラしたり、落ちこんだりしている時は、まず、それが自分の力でコントロール可能だったのか、不可能だったのかを冷静に判断してみるといいでしょう。
突然、予想もしていなかったような出来事が起きた時、動揺するのは仕方ありません。しかし、自分の力ではどうしようもならないことだったにもかかわらず、心をすりへらしたり、ボロボロにしてしまったりするのはさけてほしいと思います。
怒りや不安な気持ちはエネルギーも消費するので、つかれやストレスもたまるでしょう。周りで起こっていることや、周りの人の意見にまどわされてしまうのは、もったいないです。
状況は変えられなくても、それをどう受け止め、考えるかは自分次第です。「ピンチはチャンス」と言った人がいます。チャンスは待っているとなかなか来ないですが、チャンスに変えられる出来事は案外たくさんあるものです。
私の大好きな本の一冊、大野正人さんの『ピンチ!! それはチャンスだ!』(高橋書店)を読んでみてほしいです。
ピンチをチャンスに変える方法を身につけたら、あなたの人生は、かがやいていきますよ。
好きな本をもう1冊紹介します。私はヨシタケシンスケさんの『それしかないわけないでしょう』(白泉社)を読んで、想像をふくらませるのが好きです。
第80回 点字や音で…メダルもいろいろ
(朝日小学生新聞2020年2月20日)
国際オリンピック委員会の本部があるスイスのローザンヌには、オリンピックミュージアムがあり、オリンピック(五輪)の歴史が様々な形で再現されています。過去の大会やその当時の社会情勢を紹介する映像資料もありました。選手たちが着用したユニホームや競技用具、聖火リレートーチやメダルなども展示されていました。
メダルといえば、丸形だと思っていましたが、1900年のフランス・パリ大会の時は四角かったそうです。また、今の金メダルには、実は金がほとんど使われていなくて、銀製メダルの表面に金張り(金メッキ)したものだとご存じでしたか?
ローザンヌのミュージアムでは見られませんが、パラリンピックのメダルには、視覚に障がいのある人にも識別できるような工夫があります。私が持っている1998年の長野大会のメダルには、裏面に英語の点字で大会名が刻まれていました。2016年のブラジル・リオデジャネイロ大会では、ふって音で識別できるように、小さな金属の球を入れる工夫がありました。
東京大会のメダルは、使用済みの携帯電話やパソコンの小型家電などから金属を集めて作られるそうです。
五輪・パラリンピック大会が近づいてくると、注目選手に関する情報だけでなく、メダル獲得予想や、国別ランキングなど、メダルに関する話題が増えてきます。メダルを獲得するまでの選手たちのストーリーも気になりますが、メダルにまつわる裏話も調べてみてください。
第79回 みんなちがうから、おもしろい
(朝日小学生新聞2020年2月6日)
「人とちがうから目立ってしまうし、ジロジロ見られるのが、はずかしい。みんなと同じだったら安心できるけど、みんなとちがうからいつも不安になる。どうしたらいいですか」。このような質問を受けたことがあります。
私は、大学生の時、交通事故に巻きこまれて、車いすで生活をするようになりました。車いすを使って初めて外に出た時、周囲の目が気になりました。みんなとのちがいや、自分ができないことに気を取られてしまったこともあります。
世の中にはいろいろな価値観を持っている人がいます。今は、「みんなが同じだったらつまらないし、ちがいがあるからいい」と考えられるようになりました。他の人の「当たり前」に自分を合わせる必要はありません。いろいろな見方ができる人の方が、豊かな人生を送っていると気がついたからです。
この夏、東京オリンピック・パラリンピック競技大会が開催されます。大会をきっかけに、ちがいが尊重される社会になったらいいなと思っています。大会のエンブレムは、異なる3種類の四角形がつながりあうことで、「多様性と調和」が表現されています。みんなちがうから、おもしろい。ちがうけれど、つながれる。たがいに認め合い、支え合いながら、一つになる時代がやってくる。そんな思いがこめられているそうです。
ちがいがあることは、悪いことではありません。あなたのことをわかってくれる人は、必ずいます。自信を持ってくださいね。
第78回 限界決めず目標に向かって
(朝日小学生新聞2020年1月16日)
みなさんは、新年に目標を立てましたか? 年末年始にかけて、目標のかなえ方について質問されることが多かったので、参考になりそうな考え方を紹介します。
限界を自分で決めない。「私には無理かも」「ぼくにできるわけがない」と思っていたら、力を発揮できません。まずは「できる」と自分を信じるところから始めましょう。
私は「パラリンピックで金メダルを取りたい」という目標に向けてがんばっていました。当時はわからなかったけれど、ふり返ってみると、気づくことがあります。それは、うまくできないことを人や物のせいにしたり、不満やぐちが出たりするときは、気が散ったり、なまけたい気持ちが出ていたりするサインだったということ。
そんな時は、自分の目標を見直します。人と比べず、昨日の自分、1か月前の自分と比べ、少しでも成長していたら自分をほめるのが効果的です。他人や、周りの状況は変えられませんが、自分の考え方や行動は変えることができます。日記や記録は自分の状況をつかむのに役立つので、書いて残しておくことをおすすめします。
夢や目標は、動きません。向かっていくのも自分。逃げるのも自分です。ここまで読んで気づいた人も多いかもしれませんが、キーワードは「自分」です。自分を信じ、自分で決めたことに責任を持って努力すれば、その経験は成長の栄養になります。
2020年がみなさんにとって充実した一年になりますように。
第77回 ともに活躍できる社会のため
(朝日小学生新聞2019年12月19日)
来年の東京パラリンピックのチケットは、第1次抽選販売の申込数が約311万枚に上ったと発表され、大会への関心の高さがうかがえます。応援する人、出場する人、支える人、様々な形で関わった人すべてが「よかった」と満足できる大会となることを期待しています。
そして、この大会の開催がきっかけとなり、ちがいを認め合い、だれにも活躍のチャンスが与えられるインクルーシブな社会が実現することを願っています。
インクルーシブな社会は、どうすればつくることができるのでしょうか。
私たちは、国際パラリンピック委員会公認教材『I’mPOSSIBLE』日本版を開発し、学校に配っています。パラリンピックを題材に、共生社会への気づきをうながす教材です。
現在、この教材を活用し、インクルーシブな社会づくりに役立つ活動をした2校を選ぶ『I’mPOSSIBLE アワード』への応募作品を募集しています。表彰式は、パラリンピックの閉会式で行われます。
身近なところから社会を変える多様なアイデアや、それを実現させるためのすばらしい取り組みを世界に向けて発信したいと考えています。
第76回 自分の可能性、決めつけないで
(朝日小学生新聞2019年12月5日)
バングラデシュの経済学者で、2006年にノーベル平和賞を受賞したムハマド・ユヌスさんの講演を聞く機会がありました。利益を追求するのではなく、社会課題を解決することが目的の「ソーシャルビジネス」を呼びかけている人で、貧困のない世界をつくるために活動しています。
ユヌスさんは、「貧困は貧しい人たちが原因ではありません。そして、貧しい人は様々な機会をうばわれているのです」と説明しました。その状況を改善するために、それまでお金を借りるチャンスがなかった人たちにもお金を貸す仕組みを、バングラデシュでつくりました。
その結果、長い間貧しい暮らしを強いられていた人たちがビジネスを始め、自らの力で生活水準を向上させ、経済的にも心理的にも以前より豊かな生活を送れるようになっているそうです。
印象的だったのは、「自分のおかれた環境や、周りの人たちの言動に左右されて、自分の能力や人生を小さく見ている人が多いのが残念」と話していた点です。
人生には、予想もできない出会いや出来事が待っていて、人間の可能性は未知数です。ユヌスさんは、難しいことに直面していても、自分の可能性を信じて生きることが大切といいます。
自分の力ではコントロールできないことに悲観することなく、自分の可能性を信じて、物事に取り組む姿勢を大切にしてほしいというメッセージは、パラリンピックの精神と同じだなと思いました。
第75回 乗馬で新鮮な世界に出あう
(朝日小学生新聞2019年11月21日)
いつも見慣れた風景を、ちょっとちがった高さとスピードで経験する機会がありました。馬を育てている農家の友だちにさそわれて、自宅の近くを乗馬で散策したのです 。
私は交通事故が原因で、両足が使えなくなってから20年以上、車いすで生活しています。立ち上がることができないので、車いすにすわった目線に慣れました。ですから、馬の背中から見える視界は、新鮮でした。信号も渋滞もない田舎の一本道は、いつもは車でさっと通り過ぎる場所です。馬のペースで歩いてみると、全くちがう場所にすら感じられるのが不思議でした。
道ばたに生えている草花のにおい、冬眠の支度をしている小動物たちの姿など、自然の中でゆっくり観察する時間になりました。
ちょうど肌寒くなる季節でしたが、馬から伝わる温かさが快適で、馬の体温が人間の体温よりも高いことを体感しました。なんとも言えないゆれが心地よかったです。
馬は、いやしのパートナーだと言い、いそがしいトレーニングの合間に自分をリセットするため乗馬しにいくというカナダのパラリンピアンに会ったことがありますが、その意味が理解できました。
みなさんもたまには、スローな生活をしてみてはいかがでしょうか。
第74回 成功につながる毎日の過ごし方
(朝日小学生新聞2019年11月7日)
カナダ人のトッド・ニコルソンさんと先月、日本で会いました。アイススレッジホッケー(現パラアイスホッケー)という競技の元選手です。パラリンピック冬季競技大会に、1994年のノルウェー・リレハンメル大会から、2010年のカナダ・バンクーバー大会まで、5回連続で出場しました。
アイスホッケーの強豪国では、代表メンバーに選ばれるだけでも大変ですが、トッドさんは7年間キャプテンを務めた実力者です。 アスリートとして成功するための秘密を聞いてみました。競技成績の8割は、試合当日までにどんな準備をしてきたかで決まるといいます。練習が必要なのはもちろんですが、練習以外の時間をどう過ごしているかに注意をはらうことがかぎになる、と教えてくれました。
規則正しい生活や、栄養のバランスのとれた食事、適切な休養は当たり前で、どんな状況でも自分の心をコントロールする力が最も大切です。失敗したときは、原因と解決策を見つける姿勢を忘れなければ、成長のエネルギーになります。人や用具を大切にし、感謝する気持ちを忘れてはいけません。
勉強などでも、成功につながる過ごし方だといいます。
第73回 ミュージアムで大会の魅力発信
(朝日小学生新聞2019年10月17日)
先月、東京都新宿区に「日本オリンピックミュージアム」がオープンしたので、見学に行ってきました。「へえ、知らなかった」「そんなカラクリがあったんだ」と、だれかに伝えたくなる発見がたくさんありました。
大会の歴史のほか、メダルや聖火トーチが間近で見られたり、競技が体感できたりするスペースもあります。展示の中には日本オリンピック委員会会長の山下泰裕さん、スポーツ庁長官の鈴木大地さん、オリンピック・パラリンピック担当大臣の橋本聖子さんらが日本代表選手としてメダルを獲得した当時の写真もありました。かつて選手として活躍した人たちが、来年の東京オリンピック・パラリンピック大会を支える側として活躍しています。
ミュージアムは、東京2020大会の開閉会式が行われる新国立競技場の近くにあります。建物の天井などに使われている木は、1964年大会のときに各国の選手たちが持ってきた種を、北海道遠軽町で育てたものだそうです。
わが家では、いろいろな記念日に植樹をし、思い出の森をつくっています。森にするだけでなく、植えた木で思い出の品を作るのもいいなと感じました。
展示フロアの一角には、パラリンピックのことを紹介するコーナーもありました。もし私がパラリンピックミュージアムの館長さんになれるとしたら、何をどう見せて、どんな魅力を発信したいだろう。そんなことを考えながら見て回りました。
第72回 選手や観客が楽しめる環境を
(朝日小学生新聞2019年10月3日)
来年のパラリンピックに向け、本番を想定したテストイベントが多数開催されています。私は先日、ゴールボールの「ジャパンパラゴールボール競技大会」に2日間、ボランティアとして参加しました。会場は、本番と同じ千葉市にある幕張メッセで、日本チームのほか、アメリカとブラジルのチームが出場しました。
ゴールボールは、視覚に障がいのある選手がボールの中に入った鈴の音をたよりに競技するので、声援があると競技が進まないスポーツです。私が担当したのは、会場内で「QuietPlease(お静かに)」と書かれたサインボードをかかげる係でした。ゴールの裏側のポジションだったので、普段はなかなか聞けない選手同士の会話や、ベンチからの指示なども聞こえ、得した気分になりました。ところが、試合に集中してしまうと、うっかりサインボードを出すタイミングがおくれそうになることもあり、これまでの試合観戦とはちがう経験になりました。
選手がストレスなく競技に集中できるよう、また、観客のみなさんが楽しい思い出を残せるよう、大会の運営には多くの人の思いがこめられます。
関わって初めて気づくこと、考えることもありました。みなさんも機会があればボランティアを体験してもらいたいと思います。
第71回 国旗や国歌から大会楽しむ
(朝日小学生新聞2019年9月19日)
先日、息子が通う小学校で、パラリンピックについて話をする機会がありました。来年、東京で行われる大会を、どんなふうに楽しみたいか聞いてみると、様々なアイデアが出てきました。
中でもおもしろいなと思ったのは、「ぼくはスポーツが苦手だし、テレビ観戦も好きではないけれど、地理の勉強が好きなので、開会式と閉会式の選手入場を楽しみにしています」という意見でした。
国名の書かれたプラカードを持つ人といっしょに、選手たちが行進します。彼の楽しみは、旗手が持つ国旗を見て国名を当てたり、国名を聞いて地図上の場所を当てたりするゲームを家族とすることだと言います。
ちなみに2016年のブラジル・リオデジャネイロ大会に参加した国・地域は、オリンピックは206、パラリンピックは159でした。紛争などの影響で国をはなれていて、自分の国・地域から出場できない選手たちによる「難民選手団」も出場しました。
スポーツの国際大会では、開会式、閉会式の入場行進以外にも、試合が始まる時や表彰式で国旗がかかげられたり、国歌が歌われたりします。みなさんは、国旗や国歌だけで国名を当てることができる国は、どれぐらいありますか?
公用語がフランス語と英語のカナダでは、国歌に二つの言語の歌詞があります。また、スペインの国歌には、歌詞がないそうです。 大会をきっかけに、国旗や国歌から、その国・地域のことを調べてみるのもいいかもしれません。
第70回 すてきな文房具でやる気アップ
(朝日小学生新聞2019年9月5日)
カナダの学校は、9月から新年度がスタートします。学年が変わる節目で、文房具を買いかえる子どもたちが多いようです。この夏、日本で息子やお友だちからたのまれた品物を求めて文房具売り場をめぐりました。
今回たのまれたものは、消せるボールペン、空のペットボトルにつけて使えるえんぴつけずり、書き心地のいいノート、針を使わず紙をとじることができるホチキス、好きなキャラクターの付せん紙などです。最近は、パラリンピックのマスコット「ソメイティ」の柄がついたえんぴつや消しゴムのリクエストも増えました。
私は文房具売り場が大好きです。日本の売り場は種類が豊富で、アイデアやこだわりがつまった物がたくさんあります。商品の説明を読んで、使う場面を想像し、試して選ぶ過程が楽しいです。日本の文房具は、デザインも機能も質もいいので、海外におみやげで持っていくと大喜びされます。
「なんだか勉強に気乗りしないな」という時でも、やる気スイッチを入れてくれるすてきなアイテムもあります。お気に入りのものを使えば、勉強がはかどったり、モチベーションを上げたりすることにもつながりますよね。ちなみに、わが家では、蛍光ペンのように使える極細の付せん紙のおかげで、以前よりみんな読書の量が増えました。
みなさんも勉強や読書をするのがワクワクするような、お気に入りのアイテムを探してみてはいかがでしょうか。
第69回 先生たちがパラ競技を体験
(朝日小学生新聞2019年8月15日)
今年の夏休みは、先生たちを対象にした研修会で講師を務めることが多いです。
私は、パラリンピック教育の進め方やパラリンピックスポーツの教え方を担当しています。2学期以降、学校の授業でパラリンピックの話題をあつかってもらうためです。実際にスポーツを体験することで、パラリンピック競技の魅力を理解してもらえるようにします。
視覚に障がいのある人のために開発された、ゴールボールという球技を紹介しました。アイシェードと呼ばれる目かくしをして、鈴が入ったボールを使って行う、チーム対戦型の競技です。バスケットボールと同じぐらいの大きさのボールを転がすようにゴールに向かって投げ合い、得点を競います。
この競技を体験することで、目からの情報がさえぎられた時のコミュニケーションを学ぶことができます。参加した先生からは「気づきや発見がたくさんあった」などの感想をいただきました。運動が苦手で、スポーツには抵抗があると言っていた先生も、笑顔で参加してくださったのが印象的でした。五感を使った体験は、記憶に残ります。情報の8割は視覚情報から得ていると言われていますが、聴覚、触覚、味覚、嗅覚も意識してみてください。
第68回 東京五輪・パラへ進む準備
(朝日小学生新聞2019年8月1日)
第67回 「孤立」せずたより合える関係を
(朝日小学生新聞2019年7月17日)
日本は、自然災害が多い国です。地震だけでなく、広い範囲で豪雨も記録されています。
鉄道やバスが運休したり、道路が使えなくなったりします。水が出ない、電話が通じないなどの影響が出ることもあります。
災害時には、早めの行動と安全な避難が求められます。しかし、なかには避難をあきらめる人がいることを知っていますか。
例えば、車いすを利用していて、自力では避難場所までたどり着けないから行かない人。人と接するのが苦手な家族がいて、慣れない環境での生活がストレスになるから逃げない人。「自分が移動することで、他の人に迷惑をかけるから遠慮する」などさまざまな理由があるようです。
カナダで脊髄損傷患者のためにボランティアをしようと、トレーニングを受けていた時のことを思い出しました。
だれの力にもたよらずに、自分で生きていけることを「自立」と考える人が多いですが、それは「孤立」です。それよりも、たよれる人やモノを増やすことです。困っているときは、困っていると伝えます。助けが必要な時は、どんな助けが必要なのか、安心して言える関係を築くことが最も大切、という話を聞きました。
災害時に発生するかもしれない被害を、できるだけ少なくするための取り組みを「減災」といいます。たより合える人との関係を日ごろから築くことを意識して、災害対策をしてみませんか。
第66回 大切な人に暑中見舞いを
(朝日小学生新聞2019年7月4日)
第65回 雨はきらいと思っていたけど
(朝日小学生新聞2019年6月20日)
第64回 限られる移動手段や情報
(朝日小学生新聞2019年6月6日)
第63回 暮らしやすい社会にするには
(朝日小学生新聞2019年5月16日)
第62回 自分の言葉で自国を説明しよう
(朝日小学生新聞2019年5月2日)
第61回 パラリンピックのはじまり
(朝日小学生新聞2019年4月18日)
第60回 パラリンピックの魅力を伝える
(朝日小学生新聞2019年4月4日)
第59回 調べようパラリンピック
(朝日小学生新聞2019年3月15日)
私は、スーツの左えりに東京オリンピック(五輪)・パラリンピックのピンバッジをつけています=写真。日本に住んでいるみなさんは、見かけたことがあるロゴマークではないでしょうか。最近は新聞や雑誌、テレビコマーシャル、スーパーに並ぶ商品でも目にする機会が増えました。まだ見たことがない人は、ぜひ探してみてください。
最近は、海外出張に出かけた先でも、このピンバッジのロゴに気がつく人が増えました。知らない人から、来年の2020大会に関する質問をされる機会が多くなりました。「TOKYO 2020」は世界から注目をあびているのです。12日は五輪の500日前でした。4月13日はパラリンピックの開催まで500日の節目です。
春休みには、ぜひパラリンピックに関することを調べてみてください。小学生のみなさんが選んだマスコットは、外国におみやげに持っていくと、とても喜ばれます。キャラクターの名前や特徴を知っていますか。五輪では33競技、パラリンピックでは22競技が行われますが、競技の名前をいくつ言えますか。
スポーツが体験できるイベントも各地で開かれるので、参加してみるのもいいですね。
選手たちは、自分がやっているスポーツのことを多くの人に知ってもらい、応援してもらうことで大きなパワーをもらいます。今年はプレ大会が開かれ、海外から事前合宿にやってくる人たちもたくさんいます。大会をより楽しむために、今から、いろいろな情報を集めてみてください。疑問があれば、ぜひ質問をお寄せください。
第58回 将来の自分にメッセージ
(朝日小学生新聞2019年3月1日))
日本では春は別れや出会いの季節。もうすぐ卒業式のシーズンですね。
卒業式といえば、私はいまだに、小学校の卒業式の答辞を覚えています。何度も暗唱の練習をしたおかげなのか、今でもスラスラと内容を思い出せます。原稿を覚える時に使っていたイラストが、今も頭にうかびます。
卒業アルバムは、もらったばかりの時には何度もながめていましたが、そのうち押し入れの奥にしまったままになっていました。
再びアルバムを手にしたのは、20歳をむかえた年の同窓会。当時の仲間と卒業アルバムをめくって思い出話に花をさかせました。写真を見ながら、運動会や遠足などの学校行事を思い出し、関連したエピソードがつきず、楽しい時間が続きます。
わが家は父親の仕事の関係で転校することが多かったので、卒業アルバムを見ても自分が写っている写真が少なくて残念に思うこともあります。でも、アルバムの最後の方に書かれた友だちからのメッセージを読み返すと、顔が目にうかび、当時はあんなことを考えていたのかとなつかしいような、はずかしいような思いにもなります。
友だちの卒業文集やアルバムにメッセージをそえる時は、心をこめて、今のあなたにしか書けない思いを記しておくといいと思います。そして、将来の自分に向けたメッセージを残しておくのもおすすめです。
自分の夢や願いを書きとめておくことはとても大切です。アウトプットすることで、より具体的なイメージとなり、それが現実となるからです。
まもなく卒業するみなさん、ご卒業おめでとうございます。
第57回 スケートリンクで学ぶ
(朝日小学生新聞2019年2月15日))
カナダの首都オタワは、1月末から2月にかけて最も寒い時期をむかえます。運河の水がこおり、世界最長の屋外天然スケートリンクとして開放されます。「ウィンタールード」と呼ばれる冬のお祭りも開催され、大勢の人々が寒い冬空の下、楽しみます。このリドー運河は、全長およそ202キロメートルの世界遺産で、1832年に開通した当時とほぼ同じ姿で使われています。スケートリンクとして開放されるのは7・8キロメートルです。
スケートリンクを管理する人に話を聞く機会があり、こおった運河の一部から円筒状に切り取った氷を見せてもらいました。70センチほどの厚みの氷には、白い部分とすき通った部分があります。気泡が少なく強度が高い透明な氷が30センチ以上あれば、運河が一般開放されます。
話を聞いた日、気温はマイナス17度で、よく晴れた日でした。氷の表面がとけてしまわないかと心配する子どもたちの質問には、「やっかいなのは日光ではなく雪。氷と雪の間にできた空気の層が氷をとかしてしまうので、積雪後は速やかに除雪する」と答えていました。
説明してくれたブルースさんは「知らなかったことを知り、わからなかったことがわかるようになるのが勉強。だからいろいろなものに興味を持ってほしい」といいます。「勉強」と聞くと「難しい」「苦手」と連想する子どもも少なくない中、説明を聞き、目をキラキラかがやかせている子どもの姿が印象的でした。
第56回 「大丈夫」と言い聞かせて
(朝日小学生新聞2019年2月1日))
この時期、中学の入試をひかえている人もいるかもしれません。試験の前は不安になったり、心配になったりすることもあると思います。でも大丈夫。自分を信じて最大限のパワーを引き出せる方法があります。これまで一生懸命勉強してきたことが、ストレスのせいで発揮できなかったら、もったいないですよね。
心と体は、深く関係しています。やる気が出ない時、不安でつぶれそうな時は、どうしても体が丸まったり、縮まったりしがちです。心の状態が、体に表れることは理解しやすいと思いますが、心と体の関係は一方通行ではないことを知っていますか。つまり、体や行動が心に影響をあたえることもあるわけです。
姿勢を正しくして、胸を張って堂々とした態度をとってみましょう。2分間その姿勢を持続することで、不安な気持ちが軽くなったり、自信がわいてきたりすることが、研究で明らかになっています。姿勢や態度を変えることで、感情やストレスが調整できるのです。
車いすテニスの国枝慎吾選手は、世界一の座に何度も君臨していますが、ラケットに「おれは最強だ」と書かれたテープを貼っていることが知られています。鏡に向かって、「おれは最強だ」と毎日言い続けたこともあるそうです。
受験生や、やりたいことに挑戦する人も、鏡の前で自分をふるい立たせる言葉を自分に言ってみてください。望む通りの結果が出て、喜んでいる姿を想像してみましょう。そして、本番では、弱気な自分を消して、「大丈夫」「できる」と自分に言い聞かせて、最高の結果を残してください。
第55回 目標に向かって、高く高く
(朝日小学生新聞2019年1月18日))
今年最初の海外出張で、アラブ首長国連邦にあるドバイに行ってきました。私たちが開発や普及に携わっている国際パラリンピック委員会公認の教材「I’mPOSSIBLE」日本版の功績が認められたのです。日本パラリンピック委員会が「ムハンマド・ビン・ラーシド・アール・マクトゥーム クリエイティブスポーツ賞」を受賞し、その表彰式に参加してきました。
スポーツにおける先進的な取り組みをした人や団体が、世界中の候補者の中から選ばれます。私たちは、パラリンピック教育を通し、スポーツと教育の力で社会を変えようと活動していますが、その取り組みが認められたのは、大変うれしいことでした。
表彰式が行われた日の夜は、「世界一高い場所で、世界一の人たちと受賞の喜びを分かちあっていただきたい」という主催者の粋な計らいがありました。ドバイには、ブルジュ・ハリファと呼ばれる世界一高いビル(高さ828メートル、206階建て)があり、そこにのぼりました。息子たちが小さいころ大好きだった「100かいだてのいえ」シリーズの絵本を思い出し、2倍もあるんだなあと、ふと考えました。
「サウジアラビアに建設中のビルは、高さ約1千メートルで2020年に完成するそうだ」とだれかが言うと、「それならまた世界一になって、そのビルの上でもお祝いをしなくちゃね」と。みなさんも、目標に向かってがんばり続けられる1年でありますように。
第54回 自分の国を自分の言葉で
(朝日小学生新聞2019年1月4日)
新年あけましておめでとうございます。みなさんは年末年始をどのように過ごしましたか? わが家は例年のように、クリスマスは夫の両親の家で過ごし、お正月はわが家でゆっくり家族とむかえました。
私にとって、日本の文化や伝統を一番意識するのは、毎年この時期のように思います。正月にまつわる行事や風習、正月かざりやおせち料理にこめられた意味や由来など、みなさんはどんなことを知っていますか?
わが家では毎年、おせち料理を作っていますが、近年は息子たちも手伝ってくれるようになりました。日本の大切な伝統として覚えてもらうために、材料や料理にこめられた意味などを、ていねいに説明しながら作りました。気がつけば、日本に住んでいる時に比べて、かなりくわしくなりました。
いよいよ来年は、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会が開催されます。東京だけでなく、日本全国に外国からたくさんのお客様が訪れます。自分たちとはちがう国で生活する人たちに、聞いてみたいことはどんなことでしょう?
みなさんが伝えたい日本の伝統行事や文化は何でしょうか? 伝えたいと思う魅力はどんなところにありますか? 多文化に興味を寄せることはもちろん大切なのですが、まずは自分たちの住んでいる国のことを、自分の言葉でしっかりと説明できるようにしてみましょう。
国際理解を深めるために、まずは日本の魅力について考えたり、発信したりしてみてください。