富士山は近いうちに噴火するの?


 


進む予知 地道な観測と防災対策を

 

 富士山が噴火するか話題になっています。東日本大震災の直後、近くで地震が起きました。地元では防災対策を話し合う協議会ができました。富士山は、最後の噴火から300年たちましたが、いまも生きている活火山です。富士山は近く噴火するのでしょうか。

 

 

 

専門家が活動に注目する富士山 ©朝日新聞社

 

 

 

 

 

 富士山の活動が注目されているね。
 東日本大震災の直後、昨年3月15日に富士山付近でマグニチュード(M)6.4の地震があった。これが噴火につながるのではないかと、火山の専門家も緊張した。巨大地震の後、近くの火山が噴火するのは珍しくない。


 スマトラ沖地震の後もそうだったらしいね。
 2004年のスマトラ沖地震(M9.1)では4カ月後から3年後にかけて3つの火山が噴火している。M9以上の地震は、世界で過去5回観測されており、いずれも火山の噴火が起きている。


 日本ではどうなの?
 富士山では江戸時代に、東海や東南海、南海地震が連動した宝永地震(M8.6)が起きた49日後に宝永噴火が起きた。東日本大震災後は、富士山だけでなく、岩手山、乗鞍岳、箱根山、阿蘇山など全国の20の活火山で、一時、地震活動が活発化した。だが、いずれの火山も噴火には至っていない。


 富士山も一安心なのかな。
 富士山は、地下にマグマをためている活火山だ。江戸時代以前は、盛んに噴火を繰り返していた。火山の一生からみれば噴火していない300年はわずかな期間、たまたま間隔が少し開いているだけで、いずれ噴火すると考えておいたほうがいい。


 地下にマグマがあるの?
 富士山では、2000年から01年にかけて地下10〜20`で、マグマの動きと関連していると考えられる「低周波地震」という地震があった。医者が患者の胸や背中を軽くたたいて体の様子を探るように、人工地震で調べた結果では、地下15`ほどの所にマグマかもしれない軟らかい物質があることがわかっている。09年には、わずかに富士山が膨らむ形の地殻変動もあった。深さ15`で1千万立方メートルのマグマが増えた計算になる変化だった。


 噴火が近づいているということなの?
 それはわからない。こうした活動は、地震や地殻変動の観測網が発達してわかったことだ。観測機器がない時代にも、同様の活動があって噴火しなかったのかもしれない。逆に今までにない活動で、噴火が近づきつつあるのかもしれない。すぐに噴火するという兆候はないが、地道な観測が大切だ。


 地元では噴火への備えが始まったと聞いたよ。
 6月にできた「富士山火山防災対策協議会」のことだね。国や周辺自治体など約60機関が参加して、将来の噴火に備えた避難計画づくりや合同避難訓練をしようとしている。


 今まで何もしていなかったの?
 富士山の噴火を想定して備えると観光客が減少するかも知れないという不安が地元にあって、長年、防災対策は遅れていた。しかし、低周波地震で富士山が活火山だと再認識されたこともあり、国などは04年に富士山の噴火を想定したハザードマップを作った。その後、防災対策はあまり進んでいなかったが、東日本大震災を受けて危機感が高まった。


 噴火しそうなときは事前にわかるのかな。
 地下からマグマが上昇してくると地震や地殻変動を起こすから、それが噴火の前兆となる。火山の噴火予知は地震の予知よりもずっと進んでいる。専門家は、宝永噴火クラスなら予兆はつかめると考えている。

 

 富士山の噴火 小さな噴火が多いが、大きな噴火も知られている。1707年の宝永噴火は、大量の火山灰を噴出して、江戸にも数センチ積もった。864年の貞観噴火は、大量の溶岩で当時あった大きな湖を埋め、西湖などに分かれた。2900年前には、富士山の東側の斜面が大きく崩れる山体崩壊が起きた。
  活火山 気象庁では、過去1万年以内に噴火したか、現在も噴気活動が活発な火山を「活火山」と定義しており、富士山も含め110ある。それ以外は単に「火山」と呼んでおり、「死火山」「休火山」という分類は使われていない。世界の活火山の7%が日本にある。

 

 

朝日新聞編集委員 黒沢大陸

1963年生まれ。91年から朝日新聞記者。 東京社会部、科学部、科学医療部デスク などを経て編集委員。朝日新聞のウェブ サイト「アスパラクラブ」で災害や科学 技術を読み解くブログを連載中。

 

 

2012年7月22日

 

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