温暖化で注目される北極海航路


 


繊細な環境 開発の悪影響も心配

 

 夏真っ盛りの北半球で、広く氷に覆われている海があります。北極海です。ただ、その氷がこの数年は地球温暖化の影響で急激に減ってきました。通れなかった船も通れるようになり、アジアと欧州を結ぶ船の近道に使う動きも出ています。

 

 

 

北極海航路への出航を待つタンカー=7月5日、ロシアのムルマンスクで喜田尚撮影 ©朝日新聞社

 

 

 

 

 

 Q 北極海って、どこ?
 A 地球儀を上から見てごらん。地球の軸のてっぺんにある北極点を中心に、ロシアとカナダ、米国のアラスカ州、欧州のノルウェーに囲まれている海が北極海だ。アイスランドも近い。グリーンランドという大きな島はデンマーク領だ。
  南極の氷の下には大陸があるけど、北極の氷の下は海なんだ。


 Q 1年中、氷に覆われているの?
 A 北極の周囲は何年も解けない厚い氷で覆われている。最近氷が少なくなってきたのは、大陸に近いところだ。特に去年の夏の氷の少なさは記録的だった。


 Q 温暖化は地球全体で進んでいるんでしょ。
 A うん。ただ、北極海での影響の出方はほかの地域より激しい。原因はいろいろ考えられる。たとえば「色」。白い色は熱を反射しやすく、暗い色は吸収しやすい。海が凍っているときは一面真っ白に見えるけど、氷の下の本来の海の色は暗い。だから北極海はいったん氷が解け始めると、前より熱を吸収しやすくなり、加速度的に氷の解け方が激しくなるらしい。


 Q 船が通れるようになったって?
 A もう一度、地球儀を見て。船が欧州から北極海沿いを東に進んだら、ロシアとアラスカの間を通ってすぐ太平洋に出られる。ロシアはソ連時代の1950年代から原子力砕氷船を持っていて、北極海から自国の沿岸や極東の都市に物資を運んでいた。ただ、砕氷船が氷を割ったあとを貨物船が通るので時間もかかるし、危険もあった。
  だけど、北極海の氷が少なくなり、タンカーや貨物船の通り道として外国からも注目され始めた。去年は、この航路を通った船の数が前の年の4隻から34隻へと急増した。ロシア沿岸では今も原子力砕氷船が先導するけど、航行は非常にスムーズだというよ。以前は氷が最も少なくなる9、10月だけだったが、去年は6月末から11月まで航行できた。


 Q 今年はどう?
 A すでに次々と船が出発して、少なくとも去年と同じくらいの数にはなりそうだ。深い沖合のコースをとれるので、もっと大きな船が増えるかもしれない。


 Q 北極海を船が通るといいことがあるの?
 A 昔、欧州からアジアに向かう貨物船はアフリカの南端を回っていた。140年ほど前、エジプトに地中海と紅海を結ぶスエズ運河ができて短縮されたけど、オランダのロッテルダム港と日本の横浜港を結ぶ距離で比べると、北極海航路はそのスエズ運河を通る航路より4割も短いんだ。
  北極海には未発見の資源がたくさん埋もれているので、それを運び出すルートとしても期待されている。


 Q 地球温暖化って悪いことばかりじゃないんだ。
 A それはよく考える必要があるね。北極海の氷はもともと海水だけど、グリーンランドの氷河や南極大陸の氷が解けると海水面が上がって大きな被害が出る。気候変動がもたらす影響は計り知れない。
  北極海の環境は繊細だ。ホッキョクグマも温暖化で危機にさらされる。航路で事故が起きてタンカーから石油が流出したら、氷で回収作業が難しいし、微生物による分解もほかの海より遅い。「開発は控えるべきだ」と訴える人もいるよ。

 

 海氷と陸氷 海氷は海水が凍ってできた氷をはじめ、海に浮かぶすべての氷。陸氷は氷河など陸上でできる氷。海氷は解けても海面の上昇にはほとんど影響しないといわれるが、陸氷が解けて海に流れ出せば海面上昇に結びつく。
  原子力砕氷船 動力に原子炉を使い、水面に張った氷を割って航路を開く船。ロシアはソ連時代の1959年に世界最初の原子力砕氷船レーニン号を就航させた。

  ホッキョクグマ 地上最大の肉食動物で、野生では約2万頭が生息しているとされる。北極海の氷が解け、すみかを奪われつつあるため、絶滅が心配されている。

 

 

朝日新聞報道局 喜田尚

1961年生まれ。85年から朝日新聞記者。 東京社会部、大阪社会部を経てモスクワ 支局員やローマ支局長に。4月から機動 特派員として、東京を拠点に世界各地で 取材する。

 

 

2012年7月29日

 

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