米大統領選がいよいよ本番へ


 


現在五分五分 米は何を重視するか

 

 米国の大統領選挙が、8月末の共和党大会、その1週間後の民主党大会で正式に候補が決まり、選挙戦本番を迎えます。投票は11月6日。なぜ、世界中が選挙の行方に注目するのでしょう。どちらが当選するかで、いったい何が変わるのでしょう。

 

 

 

バラク・オバマ大統領(民主党)
  ハワイ生まれ、51歳。市民派弁護士として活動し、96年からイリノイ州議会議員、04年に上院議員に。2009年に米国史上初のアフリカ系アメリカ人大統領。

 

ミット・ロムニー氏(共和党)
  ミシガン州生まれ、65歳。投資会社役員、経営者などビジネスマン経験は20年以上。ソルトレークシティー冬季五輪組織委員長、前マサチューセッツ州知事。

 

 

 

 Q アメリカの大統領選挙って、ずうっとやっていたように思うけど。
 A 確かに。党大会で正式に決まるが、民主党の候補は現職のオバマ大統領しかいない。共和党も1月から州ごとに予備選などを始め、春にはロムニー候補に一本化した。だから「オバマ対ロムニー」で4カ月も、米国だけでなく世界のメディアが大きく報じている。


 Q なぜ、世界中が大きく報じるの?
 A それは米国の存在がが、とても大きいからだよ。軍事面では「唯一の超大国」だし、経済の大きさも世界一。国際社会をリードする政治力は、国連安保理で圧倒的な発言力を持つことからだけでも理解できる。


 Q 大統領が誰かで「力」の強さが変わるわけ?
 A 強い力をどう使うのかが変わるんだろう。2001年の9・11同時多発テロのあと、米国は「テロの温床」という理由でアフガニスタンを攻撃し、その後、イラク戦争に踏み切った。当時の大統領が共和党のブッシュ氏でなかったら、対応は違っていたと思う。
  オバマ大統領は、そのアフガンから米兵の撤退を急ぐ方針で、ロムニー氏はその方針を批判している。


 Q この方針が選挙の争点になるの?
 A 争点の一つではある。でも、より決定的なのは、失業率など内政問題だろうね。民主党は、社会保障や教育で連邦政府の役割を重視する「大きい政府」。共和党は「小さい政府」で、権限をできるだけ州政府に与え、連邦政府は小さく、税金は少なく。だから、民主党は大都市住民や労働者などリベラル層に支持者が多く、共和党は富裕層や保守層の支持が強いんだ。


 Q 具体的な政策では?
 A オバマ政権が導入した医療保険改革法がいい例だ。米国は保険料が高くて、常に約5千万人もが無保険状態。そこで2年前、国民全員に加入を義務付ける法律ができた。日本や西欧では当たり前のことなんだが、米国では保守派を中心に「個人の自由の侵害」と反対のほうが強い。ロムニー候補は「当選したら法律は廃止」と言っている。


 Q 注目の新大統領は11月6日に決まるんだね。
 A そうだけど、そうでもない。実はここで決まるのは「大統領選挙で投票する選挙人」。連邦上院議員と下院議員の合計が各州に割り当てられ、全部で538人。大部分の州では勝った候補が全選挙人を獲得する。この人たちが後日、形だけ改めて投票して決まる。


 Q 長い日程だね。
 A 予備選の1年ほど前から党内候補選びの運動が始まるから、選挙戦は2年近い。この長い期間に候補者が厳選される。しかし、党大会でのお祭り騒ぎや、巨費を投じたテレビの中傷広告を見ていると、馬鹿げた制度にも思える。


 Q で、オバマ、ロムニー、どっちが勝つの?
 A いま支持率は同じで、わからない。オバマ大統領は景気回復が進まず、4年前のようなカリスマ性も失せた。一方、ロムニー候補にも「お金持ち」「外交下手」のイメージがつきまとう。どんなことが勝敗を決めるか。それが米国を理解する鍵かもしれないね。

 

 党大会 党の大統領選の候補者が正式に指名される全国大会。民主党は9月3日からノースカロライナ州シャーロット、共和党は8月27日からフロリダ州タンパで開催。

 医療保険改革法 共和党の州知事らが違憲だと訴えていたが、米連邦最高裁が6月28日、「合憲」と認めた。  米国の公的保険はそれまで、高齢者向け(メディケア)と低所得者向け(メディケイド)があるだけで、民間保険の掛け金が払えない無保険者が問題になっていた。

 現在の支持率 オバマ大統領50.6%、ロムニー氏48.4%(ニューヨークタイムズ紙、7月30日時点)。

 

 

前朝日新聞編集委員 大妻女子大教授 五十嵐浩司

1952年生まれ。朝日新聞大阪社会部、 外報部を経てナイロビ支局長、ワシント ン特派員、ニューヨーク支局長を歴任。 大学や大学院でジャーナリズム論や国際 政治を教える。

 

 

2012年8月5日

 

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