ゲーム業界の王様「任天堂」が赤字に


 


ピンチをチャンスに 年末が勝負

 

 ニンテンドーDSにWii、古くはファミコン。ゲーム業界の王様「任天堂」が今、大変な危機に陥っています。海外でも「Nintendo」と響きわたってきた国際的な優良企業の業績が坂道を転げるように落ち込み、赤字になっています。その原因は何でしょうか。

 

 

 

米国で6月に開かれたゲームの見本市「E3」で全身を動かす「Wii U」のゲームを体験する来場者 ©朝日新聞社。

 

 

 

 

 Q いったい任天堂で何が起きているの?
 A 一言でいえば、任天堂がつくったモノが売れないんだ。2008年度に1兆8千億円もあった売上高が11年度には6千億円に。たった3年間で3分の1に激減してしまったんだよ。
  利益も08年度は5553億円の黒字だったのに、11年度には373億円の赤字になっている。これだけ急速に経営が悪化するというのは、あまり例がないことだ。今年度に入ってからもこの傾向は続き、先日発表された12年度の最初の3カ月(第1四半期といい、4月から6月までのこと)の決算を見ても、依然赤字だ。9月末まで赤字が続くらしいよ。


 Q 僕も友達もWiiやDSで遊んでいるけれど。
 A そうだよね。逆に言うと、みんなが持っていて広く行き渡ってしまい、新たに買う人がいなくなってしまった。任天堂はDSの後継機のニンテンドー3DSを去年2月に2万5千円で売り出したんだけれど、販売からわずか半年後の去年8月には1万5千円にまで値段を下げ、販売不振にテコ入れしようとした。作った値段よりも安い価格でお客さんに売る、という赤字覚悟の値下げだった。
  だから会社全体が赤字になっても不思議ではない。Wiiも06年の発売から月日がたち、ほしい人には行き渡ってしまったと思うな。
  任天堂のゲームは、実は日本ではなくアメリカのほうで売れるんだけど、そのアメリカでの売れ行きの落ち込み方が激しいんだ。4千億円を超えていたアメリカでの売上高が1年後には2500億円になったからねえ。


   どうしてなんだろう?
 A 任天堂はDSやWiiのようなゲーム機(ハード)を売って、そのうえでそのゲーム機で使えるソフトを大量に売ることで成功してきた会社なんだ。ハードとソフトは車の両輪といえるね。
  ところが、そのやり方が通用しなくなってきたようだ。iPhoneなどのスマートフォン、ネットのゲームにやられたみたいだ。中学生の中にも、携帯やスマホでゲームをやる人がいるのでは?
  誇り高い会社なので任天堂は認めたがらないけれど、ゲームの潮流が、ファミコン以来の自宅の据え置き型ゲーム機からDSのような携帯型ゲーム機へ、そして携帯電話やスマホで遊ぶように変わってきた。この変化が背景にありそうだね。


 Q モバゲーとか?
 A そうだね。グリーや、モバゲーのディー・エヌ・エー(DeNA)にゲーム界の覇権が移った格好だ。昨日の勝者が今日の敗者になるのがビジネスの世界だ。


 Q つぶれちゃうの?
 A そんなことはない。任天堂は借金がまったくないんだ。ただ売り上げの大幅減少は気がかりだね。
  任天堂には、ソニーのプレイステーションに押されたのに見事に息を吹き返した過去の歴史もある。ピンチをチャンスに生かすのもビジネスの世界のならいなのさ。任天堂も負けじと年末商戦に向けてソフトを充実させてきているので、どこかの時点で反転するかもね。

 

 決算 会社などが一定期間に稼いだ額や使った額などを計算し、明らかにしたもの。投資をする際の指標となり、上場企業は四半期ごとの開示が義務づけられている。
  Wii 2006年に発売し、全世界で5000万台以上売れている大ヒットゲーム機。任天堂は今年末に後継機「Wii U」を発売する予定。
  携帯向けゲーム 主に普及が進むスマホで遊べるゲームを指す。特に他の利用者と交流しながら遊べる「ソーシャルゲーム」が急成長しており、米国で6月に開かれた世界最大のゲーム見本市「E3」にも、大手のグリーが初出展を果たした。

 

 

朝日新聞経済部 大鹿靖明

1965年生まれ。アエラ編集部を経て現職。著書に『ヒルズ黙示録検証・ライブ ドア』『ヒルズ黙示録・最終章』『墜ちた 翼ドキュメントJAL倒産』『メルトダ ウンドキュメント福島第一原発事故』。

 

 

2012年8月12日

 

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