生々しい映像…分析し再発防止を
原子力発電所で事故が発生した時、東京電力の現場あるいは本店では何があったのでしょうか?
その様子を記録した貴重なビデオ映像が東電社内に残されています。公開を求める世論が高まり、東電は今月6日、ビデオの一部を制限つきで「公開」しました。
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3号機の原子炉建屋が爆発した直後の福島第一原発の緊急対策本部=昨年3月14日午前11時すぎ、東電提供 |
Q 何が映ってるの?
A 昨年3月11日に発生した東日本大震災のせいで東京電力の福島第一原子力発電所が大変なことになったのは知っているよね。
Q うん。原発事故って言われているよね。
A そう。事故は一瞬のうちに起こったのではなくて、去年の3月11日から16日にかけて、だんだんと大きくなっていった。地震にやられ、津波にやられ、電源がなくなって、内部が熱くなって溶けてしまい、爆発が起きて、放射性物質がばらまかれた。
周りに住んでいるたくさんの人たちが避難したまま戻れなくなった。その間、ずっと、東京電力では、福島第一原発の対策室と東京の本店との間を「テレビ会議システム」の回線で結びっぱなしにして、お互いを画面に映し、相手の顔を見ながら、マイクで会話できるようにしていた。
離れていても、すぐ近くにいるような感じで会議を開いて、事故に関する情報を共有していたんだ。全部ではないんだけど、その画面が録画され、会話が録音されていた。
Q 爆発の瞬間も映っているの?
A 屋内の対策室の中を映しているわけだから、爆発そのものが映っているわけではないけど、1号機が爆発した3月12日の午後3時36分ごろ、画面が斜めにずれるように揺れたのが映っている。直後、そこにいた人たちが、上から落ちてきた天井材の破片を振り払おうと、頭の上で手を動かしているのが見える。
Q ふーん。
A 3月14日午前11時1分に3号機が爆発した時にも、ほんの1秒ほどの間だけど、少しだけ画面が縦に揺れる様子が映っている。その50秒余り後に、福島第一原発の吉田昌郎所長が「大変です、大変です」と本店に呼びかけ、「たぶんこれは1号機と同じ爆発だと思います」と言っている。原子炉の圧力や水位について「中操(中央操作室)に問い合わせして」と指示する声も聞こえる。
Q こわいね。
A 2号機原子炉の冷却ができなくなったその日の夜には、小森明生常務が「退避基準ということを、だれか考えておかないといけない」「中操(中央操作室)なんかに居続けることができるかどうか、どっかで判断しないと、すごいことになるので、退避基準の検討を進めてくださいよ」と言う場面もある。
Q 見るには?
A 約1時間半の長さに東電が編集したビデオは、東電のウェブサイトでだれでも見ることができる。それ以外を含めた約150時間分は、今月6日から来月7日までの平日の昼間、報道の記者だけが東電本店での視聴を許されている。
Q 記者だけなの?
A うん。しかも、すべてのビデオではなくて、昨年の3月15日深夜までのビデオに限定されている。ところどころで「ピー音」や「ぼかし」が入れられていて、とても見づらいし、録音も録画もできない。
そういう制限を外して、ビデオを一般に公開するよう記者たちは求めたが、東電は受け入れなかった。東電は「社員のプライバシー」や「個人が特定され、個人が責任追及される心配」を拒否の理由にしている。
Q 記者の人たちはこれを見てどう感じているの?
A このビデオを見て聞いて初めてわかったことがやはりたくさんある。その生々しさに触れて初めて感じ取れたこともある。事故を二度と起こさないようにするためには、いろいろな視点からビデオをじっくり分析して、教訓をしっかり学ぶことが大切だと改めて思った。
原子力発電所 ウランなどの物質の原子核の分裂でできる熱をエネルギー源に使い、電気を起こす工場。
福島第一原発「撤退」問題 東電は昨年3月14日から15日にかけて、手のつけられなくなった福島第一原発を放棄して、同原発から社員を撤退させようとしたのではないかと疑われている。
東電の社長から電話を受けた当時の経済産業大臣ら政権幹部たちの話がその根拠。東電は否定している。
プライバシー 私生活をみだりに公開されない権利。憲法13条に基づく基本的人権の一つとして法的にも認められている。
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朝日新聞報道局 奥山俊宏
1966年生まれ。89年から朝日新聞記者。 東京社会部などを経て2006年から特別報 道チーム。ネット新聞「Asahi Judiciary」 の編集も担当。著書に『ルポ東京電力 原発危機1カ月』(朝日新聞出版)など。
2012年8月19日 |