自然は未解明 「想定外」前提に議論を
福井地方裁判所が、関西電力の大飯原発を再稼働しないことを命じる判決を出しました。「地震大国で想定する最大級の地震を超える地震が来ない根拠はない」と、日本が原発を持つことに根幹的な疑問を投げかけ、波紋が広がりました。判決は、どんな意味があり、どう受け止めたらいいのでしょうか。
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関西電力大飯原発1〜4号機=2012年11月2日、福井県おおい町©朝日新聞社 |
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©朝日新聞社
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電気の安定供給より生存権
Q どんな裁判だったの。
A 東京電力福島第一原発の事故後、全国の原発が定期検査のために次々に運転を停止、事故を受けて強化された規制基準で運転再開に向けた審査を受けている。裁判は、大飯原発の周辺住民らが「安全性が保障されていない」として、運転の差し止めを求めていた。
Q 日本は原発を持つべきかを社会に問う判決だね。
A 判決では、原発事故を踏まえて、人間の生存そのものにかかわる権利は、憲法で定められた権利で最高の価値を持つ、と指摘した。原発を動かさないことで起きる、「電力の安定的な供給ができず電気を作る費用と電気代があがる」などの問題より、重要だということだ。
地震については発生の仕組みがよくわかっておらず、実験で確かめることもできないうえ、過去の地震のデータから将来起きる地震を推測するしかないが、データは限られている、と指摘。このため、関西電力が揺れを想定して立てた安全対策を超えるはるかに大きな揺れに原発が見舞われる恐れがあり、住民に重大な影響を及ぼす恐れがあると判断した。
Q 自然は何が起きるかわからないってことかな。
A 東日本大震災は、政府の想定を超えた地震だった。大きな津波の恐れは指摘されていたが、生かされず事故に至った。政府は、阪神大震災後に全国で主要な110活断層を調査して危険性を指摘したが、その後の地震はいずれもこれらの活断層以外で起きている。判決でも「10年足らずの間に、四つの原発で5回も想定より大きな揺れに見舞われている」と予測の不確かさが指摘された。
Q ずいぶん、はっきりした判決だったのだね。
A さらに、地球温暖化を進める二酸化炭素の排出削減に役立つという電力会社の主張は「原発事故は我が国最大の公害、環境汚染で、筋違い」と切り捨て、「原発停止は貿易赤字を増やして国富の流出につながる」という考え方については「豊かな国土に、国民が根を下ろして生活していることが国富」と言い切った。
独自の判断避けてきた司法
Q どうして、今まではこんな判決はなかったの。
A 原発のように可否を判断するのに高い専門性が必要な問題では、裁判所は独自の判断を示さず、事業者や国の判断を追認しがちだった。中部電力浜岡原発も、巨大地震の震源域にあって危険だから止めるように住民が求めたが、裁判所は退けた。
北陸電力の志賀原発は、一審では運転差し止めを命じたが、二審や上告審では、差し止めは認められなかった。
原発事故が実際に起きて、今までのような判断はできないと考えたのだろう。
Q この後、どうなるの。
A 判決を受けても政府は、新しい規制基準でも問題なければ再稼働を進めるという従来の方針は「全く変わらない」としており、関西電力も不服として高裁に控訴した。高裁は国や電力会社の判断を追認して再稼働を認めるかもしれないし、判決が確定するまでは、審査で再稼働が認められれば動かせる。
判決については、世論の受け止め方も割れている。新聞も「国民の命を守る判決だ」「なし崩し再稼働への警告だ」と支持する意見、「非科学的、非現実的だ」「脱原発ありきの拙速な判決」と批判する意見がある。
Q 日本で原発は使うべきなのかな。
A 地震も火山噴火も、自然現象だからわからないことが多い。「これだけの災害しか起きず、それには備えているから原発は安全」では事故前と変わらない。想定以上の災害が起きることがあり、原発事故が起きるかもしれないことも広く伝えたうえで、みんなで議論して「それでも使う」「それなら使わない」と決めていく必要がある。
朝日新聞編集委員 黒沢大陸
1963年生まれ。91年から朝日新聞記 者。科学医療部デスク兼編集委員。社会部や科学部で、防災や科学技術行政、 環境、鉄道などを担当、国内外で数々 の災害現場を取材した。
2014年6月15日 |