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中東で強大化 「イスラム国」って?

 

 

独裁体制倒れ、混乱の中で勢力拡大

 

 「イスラム国」という集団がいま、イスラム原理主義への復古を掲げ、イラク、シリアの両国で急速に勢力を広げています。外国人ジャーナリストらの捕虜を「公開処刑」するなど、残酷さも際立っています。この集団にどう向き合えばいいのか。国際社会に大きな難問が突きつけられています。

 

イラク、シリアに広がる集団

 

 イスラム「国」って名前だけど、国家なの?
 自分たちがそう名乗っているだけで、まだ国際社会から国家の承認は受けていない。
 ただ支配領域はイラクとシリアの北部の広大な地域におよんでいるし、武装人員も数万人に達するとの報道もあり、国家レベルの力を持った勢力になりつつあるね。米国のオバマ大統領も徹底対決を表明するほど危機感を強めているよ。
 「原理主義」を主張しているんだよね。
 原理主義は、イスラム教の聖典コーランを厳守し、イスラム法にもとづいた社会をつくろうとする考え方。もともとイラクもシリアも原理主義とは距離を置く「世俗主義」で、独裁体制だったけど西側諸国もそれなりに付き合いやすかったんだ。
 でも、イラク戦争でフセイン前大統領が倒され、民主化運動「アラブの春」の後にシリアのアサド政権も西側の支援を受ける反政府勢力に攻め込まれたね。
 うん、そうだね。それでイラクやシリアの治安が良くなったわけじゃないの?
 そうでもないんだ。イラクでもシリアでも内戦が続いて、民衆はとても苦しんでいる。
 もともと「イスラム国」はオサマ・ビンラディンが率いた国際テロ組織アルカイダの影響を受け、イラクでテロなどを続けてきた小さなグループ。急激に強大化したのは、厳格な政治を掲げた「イスラム国」に魅力があるように映り、民衆レベルの支持もあるからだと思うよ。


内戦よりまし…民衆も支持

 

 日本人も「イスラム国」に捕まったね。
 自称「民間軍事会社経営」の千葉市の男性(42)だね。「戦地や戦場の経験を積んでこよう」と思ってシリアに行ったらしいね。
今回、銃を持っていたのは大変な失敗だったよ。この男性と現地で会ったことがあるフリーのフォトジャーナリストの後藤健二さんが言っていたけど、シリアは内戦が長引いて誰が敵で誰が味方かわからなくなってしまい、疑い深くなっている。銃を持っていたら西側のスパイと疑われても仕方ないところもある。
 この男性はどうなるの。
 いまのところ、処刑されたっていう情報はないけど、最近同じように「イスラム国」に拘束されていた米国人の記者が処刑されるビデオが流された。これはどうも本物のようだよ。
日本政府も解放を呼びかける交渉をしているようだけど、簡単に進むとは思えない。
 そんな「イスラム国」が急激に勢力を広げていること自体が不思議だよ。
 そうだね。イラク戦争と「アラブの春」が結果的に中東に大きな混乱を起こしてしまったんだ。本来ならば誰もが支持しないような過激派のグループにチャンスを与えた形だね。
米国は空爆をしているけど、効果は限定的だと見られているよ。
シリアでは内戦状態が続き、イラクでもスンニ派とシーア派の宗教対立が深まるばかり。もう地域の人々は嫌気がさしていて、誰でもいいから安定を与えてくれる人を求めている気持ちが強い。「イスラム国」は外国から見れば狂信的な集団に見えるかもしれないけど、住民の受けは悪くないところがある。
 中東はこれからどうなるの?
 かつてない混乱におちいるかもしれない。もともと中東は民族や宗派が複雑に入り組んだ土地。イラクやシリア、イランなどもそれぞれが独裁的な強権国家として厳しい締め付けをしながらかろうじて安定を保ってきたところがあった。
その独裁体制が倒れてしまった後、きちんとした民主主義が根付くのは容易ではない。そのスキをついて「イスラム国」が成長してしまったんだ。いま世界では「独裁国家のほうが失敗国家よりましではないか」という議論も強まっているよ。


「AERA」編集部 野嶋剛

1968年生まれ。朝日新聞シンガポー ル支局長、台北支局長を歴任。現AE RA編集部。著書に『ふたつの故宮博物 院』『イラク戦争従軍記』『ラスト・バタ リオン??介石と日本軍人たち』など。

 

2014年9月14日

 

 

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