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2017年10月7日付
スウェーデン・アカデミーは5日、2017年のノーベル文学賞を長崎出身のイギリス(英国)の小説家、カズオ・イシグロさん(62歳)に授与すると発表しました。作家の原点は、9歳の時に夢中になった「シャーロック・ホームズ」シリーズ。40以上の言語に訳される人気作家で、作品は日本でもドラマ化されました。(前田奈津子、岩本尚子、猪野元健)
イシグロさんは記憶や生命など人間の存在にかかわるテーマをえがき、ミステリーやSFを取りこむなど作風は一作ごとに変わります。「人と世界のつながりという幻想の下に口を開けた暗く深いところを、感情豊かにうったえる作品群で暴いてきた」と評価されました。
イシグロさんは受賞について「不安定なこの時代の、善意や平和の力を勇気づける小さな方法になれば」と話しました。
イシグロさんは1954年、長崎市生まれ。日本名は石黒一雄。5歳の時、海洋学者の父の仕事のため家族で英国に移り住み、83年に英国籍を取りました。日本語は片言しか話せませんが、「ものの見方や世界観などは日本の影響を受けている」と話します。
82年の長編デビュー作「遠い山なみの光」で、英国王立文学協会賞を受賞。名を世界に広めたのは、英国で最も権威あるブッカー賞を受けた「日の名残り」(89年)です。英国を代表する作家になりました。
2005年の「わたしを離さないで」は、臓器提供のためにクローン技術で生まれた若者を主人公にし、大きな反響を呼びました。英国で約120万部、日本では約50万部の大ヒットでテレビドラマなどになりました。
原点は、母が日本語で読んでくれたコナン・ドイルの「シャーロック・ホームズ」シリーズです。10代後半に英国の作家ブロンテの小説「ジェーン・エア」を読み、作家になる可能性を感じたそうです。
賞金は900万スウェーデンクローナ(約1億2500万円)。授賞式は12月10日にストックホルムであります。
イシグロさんの作品の日本語版を出版している早川書房(東京都千代田区)の担当編集者、山口晶さんはイシグロさんの作品の魅力について「深いテーマを取り上げているのですが、物語としても興味深く心に残るところ」といいます。
イシグロさんの人柄は、やさしく、心配りのできる人といいます。取材を受ける仕事が一日中続いても「つかれていない?」と声をかけてくれて、自分のことより周りを思いやるそうです。
同社社長の早川浩さんは、イシグロさんとは家族ぐるみの付き合い。イシグロさんには成人した娘がいて、父親と同じ作家を目指しているといいます。「親子で作家として活躍してほしい」
イシグロさんは、映画も好きで、黒澤明監督作品などを楽しんでいるそうです。
元朝小読者の中学1年生は、小学6年生のときにドラマをきっかけに「わたしを離さないで」を読みました。むずかしい部分はあったけれど、どんどん読めたといいます。
自分の命が長くないと知った若者たちが、「死に向かって進むのか」「生きることを大事にするのか」、それぞれの選択がえがかれます。
「メッセージを受け取ろうとすればするほど、考えが深まったり学んだりできる。すごいな、と思いました」。部活などでいそがしくなったからこそ、生き方について考えるのが大事だと感じています。「この機会にもう一度、読んでみます」
記事の一部は朝日新聞社の提供です。