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2020年1月12日付
核開発問題などをめぐり、長い間、いがみあっているアメリカ(米国)と中東の国イランの関係が、年明けからさらに悪くなり、一時は「戦争になるのでは」と世界に緊張が走りました。対立は、なぜ続いているのでしょう。(松村大行、中山仁)
緊張が一気に高まったのは今月3日、米軍がイラクの首都バグダッドで、イラン革命防衛隊のソレイマニ司令官を殺害したことがきっかけでした。革命防衛隊は、イランの最高指導者のハメネイ師が率いる、イラン軍とは別の軍事組織です。
米国のトランプ政権は殺害の理由について、司令官が「米国の外交官と軍人を攻撃する計画を積極的に進めていたから」と説明しました。
イラン政府は5日、2015年に6か国と結んだ核合意=下のメモ=をやぶり、自らが持つウランを無制限に濃縮すると宣言しました。高濃縮のウランは、核爆弾の原料になります。
さらに米国への仕返しとして革命防衛隊が8日、米軍の駐留するイラクの基地をミサイル攻撃。両国の仕返し合戦が始まるのではと、世界が心配しました。
トランプ大統領は同日、武力では仕返しをしない考えを声明で示しました。その一方で、18年から独自に行ってきたイランへの経済的な制裁を強めました。
イラン側は仕返し作戦の成功をアピール。ハメネイ師は演説で、「米国は敵であり続ける」とうったえました。
米国とイランの対立の歴史や、今後の見通しについて、東京・大妻女子大学教授の五十嵐浩司さん(国際関係論)に聞きました。
Q(質問) 両国の対立は、いつからですか。
A(五十嵐さんの答え) 1979年、イランでは国王の政治に不満を持った人たちが、イスラム教の指導者をおし立てて国王を追放し、イスラムの教えをきびしく守るいまの体制ができました(イスラム革命)。
追放した国王を米国が受け入れると、これに抗議するイランの学生らが首都テヘランの米国大使館におしかけ、館員を人質に444日間、立てこもりました。以来、両国は国交を断っています。
Q 核合意で歩み寄った両国がまた対立を深めているのは?
A 2018年、トランプ米大統領は、イラン核合意からぬけると、一方的に宣言。貿易やお金のやり取りを制限する経済制裁を強め、これにイランが反発しています。
Q トランプ大統領はなぜ、そのような姿勢をとるのでしょう。
A 前任のオバマ大統領による核合意が気に入らないという思いもあるようですが、中東地域での、宗教がからんだ勢力争いがかかわっています。トランプ政権は、イスラエルやサウジアラビアとの関係が深いのです。
イランはイスラム教のシーア派(少数派)の教えを信じる国ですが、サウジアラビアなど周りの多くの国はスンニ派(多数派)の教えを守っています。また、イランは古代から続くペルシャ人の国で、ほかの国々のアラブ人とは文化や言葉もちがい、仲がよいわけではありません。ユダヤ人の国イスラエルとも対立しています。
Q 米国とイランの対立はおさまりますか?
A おたがい、戦争は望んでいないようですが、中東各地にいる武装勢力の暴発で衝突が起きる心配はあります。
しかし、国同士が対立していても、イランには米国の音楽や映画などが好きな若者も多くいます。日本の小学生のみなさんには、もし戦争が起きれば市民が巻きこまれるのだという想像力をもって、ニュースを見ていてほしいです。
【イラン核合意】イスラム革命後にイランが進めてきた核の開発を制限するかわりに、経済制裁をゆるめる約束です。2015年に米国、イギリス、フランス、ドイツ、ロシア、中国の6か国とイランが結びました。イランを国際社会に引き出そうと、取りまとめの中心になったのは当時のオバマ米大統領(09~17年在任)です。
記事の一部は朝日新聞社の提供です。