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2020年7月30日付
子どもたちの歌の童謡や唱歌の歌詞には、日本の豊かな自然が反映されている――。農業・食品産業技術総合研究機構の研究チームが約1万3千曲の冒頭の一節を調べ、全体の4分の1以上に自然や生き物が登場することがわかりました。歌にえがかれ、今は失われつつある景色を取りもどそうという活動もあります。(中塚慧)
「さくら さくら やよいの空は」(「さくらさくら」)、「夕焼け小焼けの 赤とんぼ」(三木露風作詞「赤とんぼ」)、「兎追いしかの山」(高野辰之作詞「故郷」)。サクラ、赤トンボ、ウサギと生き物が出てくる童謡や唱歌は多く思いうかびます。
研究チームの片山直樹さんと馬場友希さんは、「生き物や自然が作家の創作活動にどれだけ影響をあたえてきたのだろう」と、データベースを使って調べることにしました。歌詞の冒頭を調べられる国立音楽大学附属図書館の「童謡・唱歌索引」を使い、1万2550曲を分析。義務教育が始まった1872年から、太平洋戦争が終わる1945年までの曲が中心です。その結果、全体の4分の1以上に、生態系や生き物に関わる言葉が出てきました。
「おどろいたのは、数の多さに加え、豊富な種類の生き物が登場すること」と片山さん。植物は58科、鳥類は27科、昆虫は20科確認できました。
鳥ではスズメやヒバリなど、市街地や農地の鳥が多いです。「作家は身近な鳥からアイデアを得ていたのでしょう。ただ、カラスよりもヒバリが上位なのは意外でした」。農地でよく見られるヒバリは、今よりも身近な存在だったのではと考察します。イルカなど海の生き物が少なかったのは、「水族館があまり身近でない時代で、ピンと来なかったのかもしれませんね」。
現在36歳の片山さんは東京で生まれ育ち、「自然はそこまで身近ではなかった」とふり返ります。でも、童謡「どんぐりころころ」や「めだかの学校」を歌い、ドジョウやメダカのいる風景を思いえがけたそうです。「歌から自然や生き物を大切にする気持ちも育める。歌いつぐことは大切だと感じます」
今では少なくなった生き物も多いです。「赤とんぼ」は、三木露風のふるさと、兵庫県たつの市の風景がもとになっているとされます。代表的な赤トンボのアキアカネは全国的に減り、たつの市でもめったに見られなくなりました。
市内に住む前田清悟さん(71歳)たちは、9年前から赤トンボの人工繁殖に取り組んでいます。毎年秋にめすのアキアカネから卵を採取し、春に田んぼなどで飼育容器に放流。初夏から夏の終わりにかけて羽化させます。去年は過去最多の486匹が羽化しました。
たつの市で育った前田さんは小学生のころ、農道で寝転がって見た赤トンボの飛び交う景色をなつかしみます。「歌でえがかれた景色を取りもどしたい」と話します。
記事の一部は朝日新聞社の提供です。