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2016年3月7日付
イソップ童話「アリとキリギリス」では、アリは働き者としてえがかれています。現実のアリの世界では、集団の中の約2割がふだんはほとんど働きません。でも、この2割のアリは、重要な役割を果たしていることが北海道大学准教授の長谷川英祐さんらの研究でわかりました。「働かないアリ」はなぜいるのでしょうか。(近藤理恵)
アリは、「コロニー」と呼ばれる集団を作る生き物です。コロニーは、繁殖を専門にする個体(女王アリ)と、エサを集めたり、幼虫や女王の世話をしたりするなどの労働を専門にこなす個体(働きアリ)からなります。
せっせと働くイメージが強いアリ。しかし、長谷川さんによると、アリのコロニーには約2割、自分の体をなめたり、目的もなく歩いたりする「働かないアリ」がいるそうです。この2割は、働くアリだけを取り出しても、また同じ割合、現れることが確かめられています。
アリは、ほかのコロニーと競争するため、効率を上げて、エサを確保しなければなりません。しかし、働かないアリがいると効率を下げてしまいます。なぜ、効率化をさまたげる働かないアリがいるかは、長年の謎でした。
長谷川さんらのチームは、アリには卵の世話など「常に、だれかが働いていないとコロニーを存続できない仕事」があることに注目。二つのシステムで、どちらがコロニーを長く存続できるかを調べました。一つは、ふだん働かないアリが働きアリが疲れて働けないときに働くシステム、もう一方は全員がいっせいに働くシステムです。
コンピューターシミュレーションで比べたところ、働かないアリがいるシステムの方が、働きアリが疲れた時でも、卵の世話などの仕事をできるアリがいるため、長く存続しました。
また、1匹ずつちがう色をつけて個体を識別したうえで、1か月以上、8コロニー(1コロニーにつき150匹)で行動を観察しました。すると、働きアリが休んでいる時に、働いていなかったアリが働くことがわかりました。
長谷川さんは「働くアリと、働かないアリのちがいは『反応いき値』の差」と言います。反応いき値とは、「どのくらいの刺激で反応しようとするか」を表す値で、アリは反応いき値の低いものから順に働きます。
「働かないアリは反応いき値が高いだけで、『働きたくない』というわけではありません。いっせいに働くとみんなが働けなくなった時、組織が存続できなくなります。働かないアリは、危機的な状況をのがれるためにいると考えられます」
人間の組織でも同じことが言えるかもしれないという長谷川さん。「効率化を求めすぎると、組織の存続に大きなダメージが出てしまう可能性があります。みなさんが大人になって組織を運営する時、参考にしてほしいと思います」
長谷川英祐さん
イラスト・ふじわらのりこ
記事の一部は朝日新聞社の提供です。