- 毎日発行/8ページ
- 月ぎめ1,769円(税込み)
2016年10月3日付
人々を笑わせ、考えさせた研究や業績におくられるのが、イグ・ノーベル賞です。今年、知覚賞を受賞した立命館大学(京都市)教授の東山篤規さん(65歳)が9月29日、朝小のインタビューに答えました。前かがみになって股の間からものを逆さに見る「股のぞき」では、実際より小さく見えるという研究成果についてユーモアをまじえて解説しました。(中塚慧、寺村貴彰)
大阪大学教授の足立浩平さんと共同受賞したのは、「股のぞき効果」の研究です。股のぞきで見ると、遠くのものが実際より小さく手前にあるように感じることを実験で確かめ、2006年に論文を発表しました。
人間は目の錯覚で、同じ長さでも「たて」のものは「横」のものよりも長く見えます。「垂直水平錯視」といいます。東山さんはこの錯覚が、横たわる姿勢だとなくなることに気がつきました。「姿勢によって見え方は変わる」と考え、股のぞきに注目しました。
なぜ、股のぞきに? 日本三景の一つ、京都府の「天橋立」では、股のぞきをして景色の変化を楽しむ風習があります。「関西では有名な話。そこから自然とアイデアがうかびました」
学生計90人に、股のぞきやふつうの姿勢で、はなれた位置に置いた目印(三角形の板)の見かけの大きさや距離を当ててもらう実験をくり返しました。45メートルはなれた地点から股のぞきで見ると、高さ162センチの板が平均で80センチほどに見える結果でした。ふつうの姿勢ではこうしたちがいはありません。体を曲げ、視野の上下も逆さまになると姿勢が大きく変わるため、目の錯覚が起きるようです。
研究は、どう役に立つのでしょう。「何かに役立つと思って、研究はしていません。楽しんでやることが一番」といいます。子どもたちにも「楽しくサイエンス(科学)を学んで。それが学びの本質です」とメッセージを送ります。
東山さんがいま気にかけているのは、重力との関係です。股のぞきは体を曲げるため、ふつうの姿勢と重力を感じる方向が変わります。「股のぞき効果と関係がある可能性がある。いつか、無重力の宇宙で実験したい」
受賞後、ユーモアあふれる川柳をよみました。「イグ・ノーベル ノーベルまでの 命かな」。本家、ノーベル賞の発表は3日から始まり、日本人受賞者が出たら自分に対する注目もなくなるという意味です。
イグ・ノーベル賞 変わった研究を紹介する科学雑誌の編集者が1991年につくりました。アメリカ・ハーバード大学で毎年秋に授賞式が行われます。
今年は、東山さんのほかに「白馬がアブに刺されにくい理由とトンボが黒い墓石に引きつけられる理由」(物理学賞)、「右腕がかゆいとき、鏡を見ながら左腕をかくと、脳がだまされてかゆみが止まる方法」(医学賞)などが受賞しました。
日本人の受賞は、今年で10年連続です。なぜ日本人がこんなに多いんでしょうか? イギリスやフランスで指導経験のある早稲田大学名誉教授の竜田邦明さん(75歳)は「同じ実験を何度もくり返せるねばり強さ、細かいところを見のがさずに分析できる繊細さが、ユニークな発想を生み出しているのかもしれない」と話します。
イラスト・ふじわらのりこ
記者会見を開き、受賞報告をする東山篤規さん=9月29日、京都市の立命館大学
記事の一部は朝日新聞社の提供です。