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2017年2月24日付
「メキシコとの国境に壁をつくる!」。アメリカ(米国)のトランプ大統領が「不法移民」の対策を強化し、世界中でニュースになっています=「ニュースあれこれ」を見てね。不法移民問題とは何か、米国の移民政策にくわしい成蹊大学法学部教授の西山隆行さんに聞きました。(近藤理恵)
米国はもともと、ヨーロッパなど世界から移り住んできた人たちがつくった国です。1776年の建国以来、移民を受け入れ、発展してきました。現在も移民を認めるルールがあり、毎年約70万人を受け入れています。今、米国で「移民問題」と言われていることは、正式な手続きをせずに入国した「不法移民」のことです。
米国との経済格差が大きい隣国メキシコから、仕事を求めてくる不法移民は後を絶ちません。トランプ大統領は、就任前から、メキシコとの国境に壁をつくり、不法移民を取りしまることを打ち出していました。「不法移民が米国人の雇用をうばい、犯罪をおかしている」と考えているからです。先月末には、壁を築くよう指示する大統領令に署名しました。
「壁」について、西山さんは「不法移民を減らす効果があるとは思えない」と言います。現在も、入国しやすい場所には壁が建設されています。それ以外は砂漠や大河など越境が難しい土地です。「そんな場所に壁をつくっても防げる移民は少数なので、巨額のお金を使って建設しても意味がないと思います」
ほかにも、認められた期限が過ぎても滞在したり、トラックにかくれて入国したりと、さまざまな手段を使うので、壁を建設すれば解決する問題ではないそうです。
「そもそも、不法移民は最低賃金以下の労働をしていて、雇用をうばってはいない。また、移民の犯罪率が高いというデータもありません」
現在、米国内におよそ1千万人いると言われる不法移民をどうするかも問題となっています。特に、小さいときに親に連れられて入国した人たちについては、オバマ政権に続きトランプ政権も保護を決めました。しかし、退去させるべきという意見もあります。
「自分の意思で来たのではない彼らに責任はないはずです」と、西山さんは言います。
一方、退去させるにも、お金がかかるため、あえて積極的に不法移民を取りしまらないという実態もあるそうです。「全員を送り返すことは難しい。むしろ社会に定着しやすい制度を整えることが必要なのでは」
働くことを許す「就労ビザ」を与えて税金を納めてもらったり、働けるよう支援したりする方法もあります。「不法移民をゼロにすることはできない。メキシコとの経済格差を縮めたり、信頼関係を築いていくことが解決への近道だと思います」
記事の一部は朝日新聞社の提供です。