「違憲」状態改善へ応急措置の案が国会に
小林良彰先生 慶応義塾大学教授(政治学
ジャン 去年の衆議院議員選挙(衆院選)の「一票の格差」をめぐる裁判で、選挙は無効という判決が出たってパパが言ってた。
小林先生 弁護士のグループが全国14の高等裁判所と支部で起こした裁判だね。政府は「0増5減」という方法で、格差を正そうとしている。
ポン 0増5減?
小林先生 小選挙区の「区割り」を見直して、定数を五つ減らすことだ。近く、区割りの見直し案を国会に出す見こみだよ。
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衆議院議員選挙の区割りを話し合う審議会であいさつする安倍晋三首相(左)=3月28日、首相官邸で©朝日新聞社 |
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イラスト・大沢幸子 |
ケン そもそも「一票の格差」って何?
――選挙区ごとに人口がちがい、一人ひとりが投じる票の「価値」に差が生まれることだ。たとえば、ある選挙区では30万人から、別の選挙区では60万人から1人の代表を選ぶとしたら、その差は2倍となる。去年の衆院選では、最大で2.43倍の差が開いたんだ。
ポン それって、そんなに気になるかなあ。
――人口の多い都市部で選挙に落ちた人より、少ない票をとった人が地方で当選する、なんてことが起きている。これは不公平だよね。去年の衆院選をめぐる裁判でも、憲法14条の「法の下の平等」に反するという判決が多く出た。選挙の無効を求めた判決もあった。
ジャン 無効?
――最高裁判所でも無効の判決が出たら、選挙をやり直すことになる。
最高裁は2年前、今の区割りが憲法に反する状態だと判断し、正すよう求めている。国会では去年11月、応急措置として小選挙区の定数を300から295に減らす「0増5減」の法律が成立した。人口の少ない山梨、福井、徳島、高知、佐賀の5県で、小選挙区の定数を3から2に減らすという内容だ。政府の審議会は区割りの見直し案をまとめて、先月末、安倍晋三首相に伝えたよ。
ケン どんな案?
――17都県の42選挙区で区割りを変える。2010年の人口で計算すると、一票の格差は、最も人口の少ない鳥取2区(29万1103人)と、最も多い東京16区(58万1677人)で1.998倍になるよ。
ジャン だいぶ改善されるのね。
――でも、今年1月の人口で計算すると、多くの小選挙区で2倍以上の差が出ることがわかった。「0増5減」だけでは不十分だとして、民主党など野党は、この法案に反対している。
ポン もっと早く変えれば良かったのに。
――政治家は、あまり区割りを変えたがらないんだ。自分の支持者が別の小選挙区の有権者になったり、縁のうすい地域が自分の小選挙区になったりするからね。
ケン 人口の少ない地域から減らすと、地方の声が届かなくならない?
――そういう意見もあるね。ただ、国会議員は本来、国全体のことを考えて政策をつくらなくてはならない。まずは政治家が、その姿勢をとることが大事だと思うよ。
ポン どうしたら問題は解決するのかな?
――これまでの話し合いは、選挙区から1人を選ぶ小選挙区制を前提にしてきた。でも根本的に解決するには、選挙制度そのものを見直す必要がある。衆院選では、小選挙区制と、政党の得票数に応じて当選者が決まる比例代表制の並立制をとっている。比例代表制を広げることを考えていく必要もありそうだ。
ケン 参議院はどう?
――同じように、一票の格差の問題をかかえている。この夏の参議院議員選挙から、人口の多い神奈川県と大阪府の定数を2ずつ増やし、福島県と岐阜県の定数を2ずつ減らす「4増4減」が適用される。弁護士のグループは、開票日の次の日に選挙の無効を求めて、全国で裁判を起こすというよ。今後も目が離せないね。
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