「遠い夢」実現へ 世界に新たな提案
渡辺丘記者 朝日新聞国際報道部
ケン アメリカのオバマ大統領が最近、核兵器を減らすと言ったらしいね。
渡辺記者 ６月19日にドイツの首都ベルリンで行った演説のことだね。「核兵器がある限り、私たちは真に安全とは言えない」と話した。「核のない世界」をめざして動き出したんだ。
ジャン どうなるの？。
渡辺記者 アメリカとロシアが軍に配備する「戦略核」を、前に約束していた数からさらに３分の１減らし、それぞれ約１千発にする考えを示した。
ケン センリャクカク？ 核兵器に区別があるの？
――戦略核は大陸と大陸の間を飛ぶミサイルなどで、遠くからでも攻撃できる核兵器だ。実際の戦場で、もっと短い距離から相手を攻撃するときに使う核兵器は「戦術核」と呼ばれる。オバマさんは、ヨーロッパに配備する戦術核についても減らす考えを示した。
ポン これまではどうだったの？
――オバマさんは２００９年、チェコの首都プラハで「核のない世界をめざす」とうったえた。歴史的な演説といわれて、その年のノーベル平和賞を受賞した。
その後、アメリカとロシアは、配備する戦略核をそれぞれ１５５０以下にすると約束し、今年３月までにアメリカは１６５４、ロシアは１４８０まで減らした。今回のベルリンでの演説は、それをさらに進めるものだ。
ケン どうして今、そういう発表をしたの？
――アメリカと、ロシアの前身のソ連がにらみ合っていた冷戦の時代に比べれば、核兵器を持つ意味は小さくなった。予算がきびしいアメリカは、核をたくさん持つだけのお金の余裕もない。
でも、イランや北朝鮮が核の開発をしたり、テロリストが核を手に入れたりする恐れはある。アメリカが先に核を減らす姿勢をみせて、こうした国やグループに圧力をかけ、核の広がりを止めるねらいがある。
ポン 核兵器は世界にどれくらいあるの？
――正確な数はわからない。スウェーデンの研究所の推計では、配備されている核弾頭（ミサイルなどの先に取りつける核爆発装置）は約４４００、保管中などそのほかの核弾頭は１万２８６５。保管中や捨てる予定のものを合わせると、アメリカは７７００、ロシアは８５００と、９割以上はこの二つの国のものだ。
イギリス、フランス、中国も、核不拡散条約で核兵器を持つことが認められている。条約ではこの５か国しか核を持つことが認められていないけど、このほかに条約に加盟していないインドとパキスタンが核を持ち、北朝鮮も核実験をしたよ。
ジャン オバマさんの演説は、何が新しいの？
――世界から核をなくすことをめざすけど、ほかの国が核を持っている限り、アメリカは核を持ち続けるという考えに変わりはない。ただ、今回は核の数を減らすだけでなく、核の役割を小さくする方針も示した。民間人や民間の施設はねらわず、他国が核攻撃をするのを思いとどまらせるためだけに核を使うんだって。
ポン それで核兵器は減らせるの？
――オバマさんの提案に、ロシアが応じるかどうかがかぎをにぎる。
中国もインドも核を増やそうとしている。核以外の戦力はアメリカが圧倒的にすぐれているといわれるなかで、こうした国々が核を減らすことは考えられないという専門家もいる。
日本のように、アメリカの核に頼ってきた同盟国との関係をどう考えるかという問題もある。
課題は多いけど、「どんなに遠い夢だとしても、核のない世界をめざす」というオバマさんのリーダーシップに世界は注目しているよ。
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