元首相への支持をめぐり争い続く
大野良祐記者 朝日新聞国際報道部
ケン 東南アジアのタイで、みんなが争っているみたいだね。どうしたの?
大野記者 政府に反対する人たちがデモを続けているんだ。日本の企業が多く進出し、日本からの観光客も多い国だから心配だね。
ポン ど何が起きているの?
|
▲首相府の前をうめつくしたデモ参加者たち=9日午後、タイのバンコクで©朝日新聞社 |
――「政府は不正が多く、信用できない」と不満を持つ人びとが首都バンコクの中心部でデモを始め、40日以上も続いている。政府の建物に立てこもったり、警官隊と争ったりして約300人がけがをしたよ。
ケン 大変だね! 何が原因なの?
――今、政治を行っている与党が「恩赦法」という法律をつくろうとしたことがきっかけになった。恩赦とは裁判で有罪となった人の罪を軽くすることだ。
タイでは2006年9月に軍が武力を後ろ盾に当時のタクシン首相を追いやった(選挙によらず、力で政権をうばうことをクーデターという)。タクシンさんは今、不正に土地を取引したとして有罪とされ、海外にのがれて暮らしている。
今のタイの首相インラックさんは、タクシンさんの妹。恩赦法はタクシンさんを帰国させるためのものだと市民の間にいかりが広がったんだ。つまり、タクシンさんに賛成する人と、反対する人が争っているんだ。
ポン けんかはいけないよ。
――そうだね。インラック首相は法案をあきらめることにしたけど、反タクシン派は、タクシン派のインラック政権を倒そうとデモを続けているんだ。
ケン なぜタクシン派と反タクシン派は争っているの?
――タクシンさんは2001年にタイの首相になった。農民や貧しい労働者などに手あつい政策を進めて支持を得た。一方で、大企業や都市の知識人などそれまで利益を得ていた人びとからは強い反発を受けた。軍や王室からも反感を買ったとされている。
06年にタクシンさんが追放されて以降、タクシン派と反タクシン派は、たびたび政権の座を奪い合ってきた。
ジャン この前、王様の誕生日には争いをやめたと聞いたわ。
――そうなんだ。タイにはプミポン国王という王様がいる。政治的な力はほとんどないけど、国民の多くが尊敬していて大きな影響力がある。王様の誕生日はとっても大事だから、その日にけんかをすることは、タイの人にとってありえないこと。
王様は誕生日に「人びとが力を合わせてきたおかげで我が国は長く平和だった。安定と安全のためにそれぞれの義務を果たすべきだ」と話したものの、デモについて直接やめなさいとはいわなかった。
ケン これからどうなっちゃうの?
――インラック首相は、来年2月2日に総選挙をして、国民に政府を選び直してもらうことにした。しかし、反政府派は今の選挙ルールでは、インラック首相が再び首相になってしまうと考えていて、選挙ではない方法で首相や内閣を決めたい、といっている。民主主義とはあいいれない考え方だね。
もし選挙が行われず、新しい政府がなかなか決まらないと、国の運営がうまくいかなくなるかもしれないよ。
ジャン 日本にはどんな影響が出ているのかしら?
――タイにある会社へ世界から仕事が回ってこなくなったり、観光客が減ったりする可能性があり、実際その影響は出始めている。タイには日本企業も多くあり、約5万6千人もの日本人が暮らしている。混乱の長期化を心配する声は多いんだ。
|