「ベトナムの海」を中国が開発、争う
佐々木学記者 朝日新聞ハノイ支局
ケン 最近、南シナ海という海でベトナムと中国の船が激しくぶつかり合ったり、水をかけ合ったりしているよ。いったいどんな海なの?
佐々木記者 中国の南側に広がる海で、フィリピン、ベトナム、マレーシア、ブルネイに囲まれている。魚がいっぱい取れて、海底にはたくさんの石油や天然ガスがあると言われている。それぞれの国が「自分のものだ」と主張し合っているんだ。
ジャン どうして今回、この2国が激しくぶつかり合ったの?
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ベトナムの巡視船に近づく中国船=ベトナム政府提供の映像から
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デザイン・佐竹政紀
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――ベトナムが自由に開発できるはずの「排他的経済水域」(EEZ)という海域に、中国が機械を運び込んで石油の掘削作業を始めてしまったんだ。ベトナムは怒って約30隻の船を使って追い返そうとしたけど、中国は約80隻の船を引き連れていて、逆に体当たりなどを受けてしまった。
ケン けがをした人もいるよ。心配だね。
――そう。だからベトナムなど東南アジアの10か国でつくるASEAN(東南アジア諸国連合)というグループのリーダーが結束して「力を使うのはやめて、ルールを大事にしましょう」と確認しあう宣言を出した。
ポン どんなルールなのかな?
――2002年に中国とASEANが「領域争いは国際法にしたがって平和的に解決しましょう」という約束(行動宣言)を結んだ。EEZでの権利については、国際連合海洋法条約で定められている。
中国は1995年にフィリピンが支配していた海域に一方的に小屋を建てて、一帯を自分の支配地域にしてしまったことがある。いまも複数の海域で対立しているよ。フィリピンは軍事力で中国に勝てないから、アメリカ軍に協力を頼んでいるんだ。
ジャン アメリカも南シナ海に関係があるの?
――貿易に使う船がたくさん通る海だからね。だれかに独り占めにされて、自由に通れなくなったら困るでしょ。それに、オバマ大統領はアジアとの関係を重視する戦略をとっていて、アジアで中国の力が強まることを警戒しているんだ。
ジャン 中国はルールを大切にしてないの?
――中国は独自に、南シナ海の9個の点(9段線)をU字形に結んだ範囲内を自分の領域だと主張している。これは1994年に効力が発生した国連海洋法条約よりずっと前からある歴史的な根拠だから、国際法では説明できないと言っているんだ。
ジャン それでは議論がかみ合わないね。
――そこでフィリピンは去年、ドイツに本部がある国際海洋法裁判所に仲裁を求めた。でも、中国が応じないので思うように進んでいない。
ケン 日本は?
――日本も尖閣諸島や東シナ海のガス田開発で中国と争っているから強い関心を持っている。安倍晋三政権は似た立場のASEANと連携し「力で現状を変えてはいけない」と訴えているよ。
ポン どうしたらみんなが仲良くできるかな。
――中国とASEANは、協調を約束した行動宣言に、法的な力を持たせようという話し合いをはじめた。でも今回の対立で、先行きはますます不透明になった。国際社会が協力しあって、対話が進むように環境を整えていくことが大事だね。
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