農村部と都会の対立続き軍出動
高久潤記者 朝日新聞国際報道部
ケン タイの軍隊が権力を奪って、大変なことになっていると聞いたよ。
高久記者 5月22日に起きたクーデターのことだね。タイは昨年の秋から、このとき首相だったインラックさんを支持するグループと、反発するグループが対立して混乱していた。軍が間に入って話し合いをしていたのだけど、結局まとまらず、軍の最高実力者プラユット陸軍司令官が、自分たちが権力を握ったと発表して、憲法を停止したんだ。要するに、軍の言うことを聞きなさいって宣言したんだ。
ポン そんなことしていいの?
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バンコク市内を監視するタイ軍兵士=24日
©朝日新聞社 |
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クーデターに反対する市民=24日、タイ・バンコク©朝日新聞社
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――国際社会は批判しているよ。政治は法律を決めたり、税金の使い道を決めたりするので、人々の生活に大きな影響を与えるから、できるだけ多くの意見を反映させて決めるのが民主主義のルールだ。クーデターはその否定だよ。ただ、タイではめずらしい出来事じゃないんだ。
ポン そうなの?
――政治が行きづまると軍が出てきて、すべての動きをストップさせ、新しい政権をつくる。タイの歴史ではそんなことがくり返されているんだ。
1932年に王の権力を憲法でしばる立憲君主制になってから、選挙によって市民の意見を政治に反映させる仕組みが整えられてきたのだけれど、失敗や未遂もふくめると、今回のクーデターは19回目になる。最近だと2006年に起きて、首相だったインラックさんの兄タクシンさんが国外に追放されたよ。
ケン 二つのグループはなぜ対立しているの?
――昨年秋、首相のインラックさんが兄のタクシンさんを帰国できるようにしようとしたのがきっかけだ。タクシンさんは、わずかなお金で医者にかかれるようにする仕組みをつくるなどして、とくに農村部に住む人たちから人気が高いんだけど、逆に都会で豊かな暮らしを楽しむ人たちからは好かれていない。だから、こうした反対派が大規模なデモを始めたんだ。
ちなみにクーデターを起こした軍やインラックさんを首相からやめさせる判決を出した憲法裁判所も、反対派寄りだと言われている。
ジャン 話し合いで仲良くできないの?
――それが、簡単じゃないんだ。タイと聞くと、どこを思い出す?
ポン バンコクかな。
――タイでは、人口は農村の方が都会より多いから、反対派は選挙では勝てない。でも、バンコクのような発展した大都市の人たちから見ると、タクシンさんは選挙に勝つために、農民たちが喜ぶことをしてきたように見えて、気に入らない。だから、選挙で負けても納得できないんだ。これに対して、タクシンさんを応援する人たちは当然、「選挙の結果を受け入れるべきだ」と言うよね。社会がまっぷたつに割れてしまっていて、話し合っても選挙してもうまくいかない。
ケン 今後、どうなるの?
――いずれ、軍が今握っている権力を手放して、選挙を行って民主主義による政治が復活すると言われているけど、まだメドはついてないよ。
ジャン タイは日本人観光客が多いって聞くけど……。
――日系企業は約4千社進出して10万人の日本人が住んでいる。日本の自動車メーカーの東南アジアでの一大拠点で部品工場も集まっているんだ。今のところ大きな影響は出ていないけど、混乱が長引くとタイ経済にも影響が出てくるよ。今後、多くの人が納得できる政治制度を、タイ社会がどうやってつくっていくのかが注目されているんだ。
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