氷の壁で危険な汚染水を防ぐ
朝日新聞科学医療部 木村俊介記者
ケン 東京電力福島第一原子力発電所で新しい工事が始まったんだって?
木村記者 2日に着工した凍土壁のことだね。建物のまわりにある土を地下水ごと凍らせて、地中に氷の壁を造る。汚染水問題を解決するために始まったんだ。
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地下水が原発の建物に流れこむのを防ぐ凍土壁の仕組み
©朝日新聞社 |
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東京電力福島第一原発の汚染水タンク=去年9月、福島県大熊町©朝日新聞社
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ポン なぜそんなことをするの?
――第一原発では、放射性物質に汚染された水が1日400トンずつ増え続けているんだ。学校にある25メートルのプールに水を入れると、だいたい350トンくらいだから、プール1杯分より多い量だ。
ジャン 汚染水が増えると、どう問題なの?
――汚染水は放射性物質をたくさん含んでいて、とても危険だから慎重に保管しないといけない。今は、高さが10メートル以上ある大きなタンクで保管しているけど、その量はもう50万トン近くになっている。900基余りのタンクが第一原発の敷地にずらっと並んでいる状態なんだ。
ケン どうして汚染水が増えるの?
――原発では、核燃料を燃やして電気をつくる。東日本大震災で第一原発は事故を起こして、核燃料が建物の中に溶け落ちてしまったんだ。今も溶けた核燃料に水をかけて冷やしているけれど、核燃料に触れた水は、高い濃度の汚染水になってしまう。そこに地下水が流れこんで汚染水に混じるから、汚染水が増え続けているんだ。
ジャン だから対策が必要なのね。
――汚染水を増やさないためには、建物に近づく地下水をせき止めて入ってこないようにする必要がある。凍土壁は、そのための計画なんだ。
ケン どうやって氷の壁をつくるの?
――まず、地面に地下30メートルの深さまで穴を掘って、パイプ(配管)を差し込む。これを1メートル間隔で、大きな建物の周りをぐるりと囲むようにつくっていく。そのパイプにマイナス30度ほどの、冷たい特殊な液を流すんだ。
ポン どうなるの?
――冷凍庫では、水が凍って氷になるよね。土の中でも、差しこんだパイプの周りが冷たくなって、土に含まれている水分が少しずつ凍っていくんだ。だんだんとパイプの回りの氷が大きくなって、隣のパイプの氷とくっつくと、壁が完成。取り囲む長さは1500メートルほどになる。
ケン すごい。
――来年春に凍らせ始める予定なんだけど、壁が完成するまでには数か月はかかるそうだよ。完成すれば、建物に流れこむ地下水の量は大幅に減ると考えられている。すでにためている汚染水全体の量は減らないけど、これから増える量がグッとおさえられるんだ。
ジャン うまくいくといいわね。
――でも、そう簡単にはいかないかもしれないんだ。地下水の流れが速いとなかなか凍らない。1500メートルのうち壁がうまくできない場所があれば、地下水の流れも変わってくる。そうなれば、建物の中から汚染水が外に出てくるかもしれない。こんなに大きな凍土壁をつくるのは初めてで、しかも長い間凍らせ続けないといけない。凍らせるのには、ふつうの家庭1万3千軒分の電気を使うそうだよ。
ポン すごく大変な工事なんだね。
――凍土壁がうまく完成しても、第一原発の事故が終わるわけではないよ。建物の中に溶け落ちている核燃料を集めて取り出す大事な作業がある。「これで安心」と言えるまで、まだ何十年もかかるんだよ。
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