働く時間の制限をゆるめる動き
山本知弘記者 朝日新聞経済部
ポン 残業代ゼロ」の働き方ができるってニュースで見たよ。でも、残業代って何?
山本記者 会社がお父さんやお母さんを長く働かせたとき、払うお金のことだよ。安倍政権は今、残業代のルールなどを定めた「労働基準法」という法律を変えようとしているんだ。早ければ来年年明けに国会で話し合われるよ。
ケン 働く時間はどうやって決まっているの。
|
イラスト・きくちろう |
|
残業代ゼロの法改正に反対の声をあげる労働者ら=5月1日、三重県津市©朝日新聞社
|
――今は会社がやとった人を働かせられるのは原則1日8時間までなんだ。働き過ぎで体をこわさないように、労働基準法で決まっているんだ。1日は24時間だから、8時間働いて、8時間寝たら、残りは何時間かな。
ポン 8時間!
――そうだ。その8時間で、お父さんやお母さんは会社と家を往復したり、ご飯を食べたり、みんなと遊んだりする。働き過ぎると、生活のバランスが崩れるからね。
ジャン パパの帰りが夜おそい時もあるわ。
――「残業」のせいじゃないかな。会社がお父さんたちを1日8時間を超えて働かせることだ。この場合、会社は「残業代」というお金を払う義務がある。午後10時よりおそい深夜や、休みの日に働かせたときも、同じように特別なお金を払う決まりだよ。
ケン へー。いつもより勉強をがんばったごほうびみたいなものかな。
――似ているけど、それだけじゃないよ。残業代は、いつもの給料より25%以上、金額を多くする決まりだ。もし1時間に1千円もらえる仕事なら残業代は1250円以上になる。深夜に働かせても25%以上、休みの日に働かせると、35%以上、多くなるんだ。
ポン なんでだろう。
――思い出して。会社がお父さんやお母さんを働かせていいのは原則1日8時間までというのが労働基準法の決まりだよね。もし、長く働かせるほど会社が払うお金が増えると、どうなるかな?
ケン 長く働かせるほど、会社が損をする!
――正解。政府が考えている「新しい働き方」は、これを変えるものなんだ。会社が決めた「成果」を出せたかどうかで給料を払うから、何時間働いたかや、いつ働いたかは関係なくなる。「残業代ゼロだ」「働き過ぎになる」といった反対も強いんだ。
ジャン ふーん。でも新しい仕組みは、なぜいるの。
――仕事の効率を高めるためだと言うよ。働く時間が長くても、短くても、もらえるお金は同じ。それなら、早く仕事を終えたほうがいいよね。子育てや介護を抱えていても、働きやすくなるんだって。
ポン でも、いつも早く仕事が終わるのかな。
――そこが問題だ。残業させても、深夜に働かせても特別なお金を払わなくてよくなると、会社は、たくさん仕事を任せるかもしれないよね。労働問題に詳しい佐々木亮弁護士は「会社が残業代を払わずにすむ選択肢が増えるだけ」と言うよ。
ジャン うちのパパも関係ある?
――反対の声が強かったから、政府は、まずは「年収1千万円以上」の給料の高い人を対象にする。給料をもらう人の4%だ。でも、大きな会社が集まる「経団連」という団体の榊原定征会長は「全労働者の10%くらいは対象にするべきだ」と言うよ。対象者は広がる可能性があるんだ。
ケン いい仕組みかな。
――真剣に考えないといけないね。働き過ぎなどが原因で「心の病」になる人は増えている。労働規制は働く人を守るためのもの。「働かせやすさ」でなく、「働きやすさ」の視点で議論しないとね。
|