イスラム武装派が宗教対立あおる
山西厚記者 朝日新聞国際報道部
ジャン 中東のイラクがいま、大変な状況だって聞いたよ。
山西記者 「イラク・シリア・イスラム国(ISIS)」という武装組織が6月、国内第2の都市モスルなど北部の街を次々に制圧したんだ。政府軍も反撃を強め、これまでに3千人近くが戦闘やテロで亡くなったよ。
ケン 最近まで戦争していた国だよね?
――2003年にアメリカ(米国)中心の多国籍軍との間で「イラク戦争」が始まった。戦闘は10年まで続き、11年12月に米軍がイラクから完全に撤退したんだ。
ポン 平和になったんじゃないの?
――イラクは元々、宗教や民族の異なるさまざまなグループがいっしょになった国だった。戦争をきっかけに、グループ同士の争いがひどくなったんだ。
ジャン どんなグループがいるの?
――宗教だと、イスラム教シーア派とスンニ派に分かれている=地図参照。政府を率いるマリキ首相はシーア派の出身だ。また、北部ではクルド人という民族が大きな勢力となっているね。
ケン なぜ仲が悪いの?
――イラクは石油が豊富な国で、マリキ首相はその石油を売ってもうけたお金の分けかたで、シーア派をひいきした。また、治安が悪いのをスンニ派のせいにして、政府の大事な仕事からスンニ派を追い出したんだ。クルド人は自分たちの国をつくるのを目標にかかげる。
ポン 今回の戦いと、どんな関係があるの?
――ISISがマリキ政権への攻撃を始めると、おこっていたスンニ派の一部が同調したんだ。
ケン ISISってどういう人たちなの?
――イラクで米軍と戦っていた「アルカイダ」というテロ組織の仲間だ。アルカイダはスンニ派で、教義の内容が少しちがうシーア派も敵視し、マリキ政権を攻撃しているんだ。2年ほど前からは、となりのシリアでも活動していた。
ポン なにが目的なの?
――イスラム教の教えに忠実な自分たちの国をつくるのが目標だ。6月29日には、シリア北部からイラク中部にまたがる地域に「イスラム国」をつくると宣言したよ。
ジャン なにそれ。
――聖典「コーラン」などで示されたイスラムの規則をきびしく守るといっている。たとえば、どろぼうをしたら手を切り落とすとか、お酒を禁止するなどがあるね。女性についてもすその長い衣服で全身をおおい、外出をひかえるよう求めているんだ。
ポン イスラム教徒はみんな賛成しているの?
――サウジアラビアなどイスラム教の国々は、国際社会のルールを無視し、自爆テロなど暴力にうったえるイスラム国を認めていない。でも、一部の過激な人たちが刺激を受けてISISに同調するおそれはあるね。
ケン これからどうなるの?
――まずはイラク国民が一致団結して、ISISに立ち向かうことが必要だ。シーア派の間でも、マリキ首相が退いて、新しい政府を作るよう求める声が上がっているよ。
ケン また戦争が始まるのかな?
――米国は陸軍の特殊部隊300人を「軍事顧問団」として派遣した。でも、イラク軍が作戦を立てたり情報を集めたりするのを手伝うだけで、戦闘に関わらないといっている。イラク戦争で約4500人の米兵が犠牲となったため、米国の世論は新たな戦争には否定的なんだ。
しかし、イラク軍といっしょにいたら、戦闘にまきこまれるかもしれない。米軍が飛行機でISISを攻撃する可能性も残っているよ。
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