文・谷内 悠 (東京大学大学院・人文社会系研究科)

 

 

日本の「陰陽師」 科学担当の公務員

 

イラスト・岡本詩子

(東京大学大学院・学際情報学府)

 

 これまで西洋のお話が多かったので、今回は東洋に目を向けましょう。
  西洋の錬金術に対し、中国には「錬丹術」というものがありました。錬金術も錬丹術も、金をつくり出すだけでなく、不老不死になることを目指すものです。特に錬丹術は、不老不死の「仙人」になる薬をつくろうとしていました。
  その結果、医学や薬学といった方面にさまざまな知識を残しています。『鋼の錬金術師』でも、東洋の錬金術師は医療が得意ですよね。
  日本独特のものとしては「陰陽道」があります。これは占星術と似ていて、自然界の変化を読み取ることで、人や社会の運命を知ることができる、という考えに基づいています。そのため陰陽道が、今でいう天文学や地理学といった分野の最先端科学だった時代があったのです。
  しかも陰陽師は、国家公務員だったんですよ。科学的な知識を使って暦や時計をつくるということが、とても大切な仕事だったからです。
  陰陽師と言うと、呪文を唱えたり指を複雑な形に組んで印を結んだりして、魔法みたいなことをする人、というイメージがあるかもしれません。でも、それだけではなかったのですね。
  実は私は、そっちの陰陽師のほうが好きなのですけれど。中学の頃、ファンタジー小説で陰陽道を知って、「臨兵闘者皆陣裂在前」という九字の印を覚えようとしていました。今思い出すと、ちょっと恥ずかしいかも……。


 

 

2012年7月22日号

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